閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

いないいない

劇団ガレキの太鼓 第五回公演
劇団”ガレキの太鼓”公式WEBサイト!

  • 作・演出 舘(だて)そらみ
  • 美術:濱崎賢二
  • 照明:岩城保、山岡茉友子
  • 音響:田中亨大、角田里枝
  • 衣裳:あに子
  • 出演:木崎友紀子(青年団)梶野春菜 北川裕子 伊藤毅 篠崎友(とくお組)鈴木浩司(時間堂) 林竜三(青☆組) 他
  • 劇場:アトリエ春風舎
  • 評価:☆☆☆★
                    • -

初見の劇団。これが第五回目の公演だとのこと。
物語の舞台は近未来の社会である。その社会では当局から「通知」があった人間がどこかへ連れ去れてしまう。連れ去れてしまった人がどうなったかはわからない。「通知」された人の家は当局によって破壊されてしまう。「通知」される人がどのように選別されるのかはわかっていない。
舞台上にあるのは「通知」から逃れた人たちの隠れ家である。男女7名の人間がそこに避難している。避難所は六畳ほどの広さしかない。彼らはその部屋に置かれたタンスや戸棚などの家具をそれぞれのねぐらにしている。
ナチスのユダヤ人狩りから避難していたアンネ・フランク一家の生活やスターリン時代のソ連を思わせる設定である。また他人同士が狭い場所で不便な暮らしを強いられる様はいままさに震災、津波、原発のために避難生活を送っている人たちの姿も思い浮かべずにはいられない。

こうしたストレスフルな共同生活がもたらす閉塞感、不安感がリアルに表現されてる芝居だったが、こういう主題の作品は珍しくはない。
「いないいない」のユニークな点はこうした閉塞的状況が次第にベケット風の不条理やメタ演劇的な問いかけへと移行していくところだ。
最初のうちは避難所は、さまざまな個性の避難民が集まり議論する優れて演劇的な場となっている。しかし時間の経過とともに絶望と倦怠がその住民を支配するようになり、彼らは自分の居場所である戸棚やタンスのなかからほとんど動かなくなってしまうのだ。後半に入ると舞台上の動きはほとんどなくなってしまう。それは長期にわたる避難生活で彼らの絶望的な退屈がますます深まっていくのと並行している。そして最後のほうになると人物の姿自体が少しずつ消えていってしまうのだ。彼らの意識の残存だけが会話しているような文字通りの空虚が舞台空間を徐々に浸食していく。
最後にもう一仕掛けを組み込んで、別の層が現れたらもっと面白かったと思う。意外性のある転換が最後のほうに欲しかった。途中で最後の場面が読めてしまったのが残念だった。

よくできた脚本で演技演出も堅実。おでこを出した女優、北川裕子ちゃんがとても可愛くて彼女ばかり目で追っていた。私が小学校の頃のアイドルだった谷口さんを思い出す。

劇評サイト、ワンダーランドにこの作品の400字レビューを投稿している。
http://www.wonderlands.jp/archives/18071/