ロロ、範宙遊泳、ジエン社、バナナ学園純情乙女組、マームとジプシー
- 会場:水天宮ピット 大スタジオ
東京芸術劇場
ロロ『夏が』
- 作・演出:三浦直之
- 出演:亀島一徳、篠崎大悟、望月綾乃、島田桃子、多賀麻美
- 評価:☆☆☆★
範宙遊泳『うさ子のいえ』
- 作・演出:山本卓卓
- 出演:熊川ふみ、戸谷絵理、福島冠、他
- 評価:☆☆☆★
ジエン社『私たちの考えた移動のできなさ』
- 作・演出:作者本介
- 出演:善積元、山本美緒、清水穂奈美、片飛鳥、他
- 評価:☆☆☆★
バナナ学園純情乙女組『バナ学eyes★芸劇大大大大大大作戦』
- 総司令官:二階堂瞳子
- 評価:☆☆☆☆★
マームとジプシー『帰りの合図、』
- 作・演出:藤田貴大
- 出演:萩原綾、尾野鳥慎太朗、成田亜佑美、召田実子
- 評価:☆☆☆☆★
-
-
-
- -
-
-
-
ツイッターのTL上で話題となっていた芸劇eyes番外編「20年安泰」を見に行った。二十台の若い演劇人が中心の五つのユニットによるオムニバス公演。一団体につき二十五分の時間が与えられている。
出演はロロ、範宙遊泳、ジエン社、バナナ学園純情乙女組、そしてマームとジプシー。いずれも小劇場ファンのツイートでしばしば目にする団体である。私が見たことがあるのはこのうちロロのみ。
会場はかなり広い。がらんとした倉庫のようなところ。おそらく三百人ぐらいは入っていたはずだ。人気公演で前売りチケットはかなり前に完売になっていた。
上演順は上の並び順だ。25分という中途半端な時間とあののっぺらした空間をどう使うかで団体ごとに差がはっきり出たような気がした。
まずロロ。ロロは既に三公演見ている。今回は人魚姫の話。大きな布を使った海の表現と懐中電灯を使った影絵の効果といった視覚的な工夫がよくできている。でも芝居としてはあまり印象に残らなかった。三人の若い女優が可愛いなあと想いながらぼーっと見ていた。
次は範宙遊泳。うさぎが出てくるナンセンスなファルスだったが、ギャグが笑えない。私にはあまり面白くない。女優の熊川ふみさんが可愛いなあ、と彼女の姿を目で追っているうちに芝居が終わった。
三番目がジエン社。三箇所で同時多発対話が続く芝居。最初は同時会話を一生懸命聞き取ろうとしていたのだけれど、途中で疲れてしまったのか、気がついたら眠っていた。眠ってしまうと25分しかないのでどんな話なのかまったく解らない。ちゃんと起きて見ていれば面白かったのかもしれない。
そして四番目がバナナ学園乙女組。このパフォーマンスがツイッターでは一番話題になっていた。激しい客いじりがあるということだったので、いじられたい私はこのために最前列通路側の客席を確保したのだ。出演者が50名(笑)。いやあ、期待以上に凄かった。客に雨合羽が配付されるのだが、本当に水しぶきががんがんかかってくる。舞台で本水が使われると、役者も観客もその垣根が取り払われて、一気に興奮状態になってしまう。水だけではない。他にもいろんなものが客席に飛んでくる。役者との接触もある。
最初のうちは呆然としてしまったが。あの騒々しさ、混沌ぶり、強烈な体験だった。そして思春期ぽい生臭い汗の匂いが会場に漂う。あの猥雑なエネルギーを学園パロディの枠組に強引に押し込んでしまう力技に感嘆した。卑俗、矮小な芸をあの規模まで展開させていく妄想構想力はすごいものだと思う。感動ものだ。
もともとは地下アイドルを応援するヲタク芸とも関わりがあるようだ。女優はみなAKB48よろしく制服風の服を着ている。ビキニパンツの男に女優が顔を近づけて擬似フェラチオを繰り返す「ダンス」?はやりすぎだと思ったが、そういったヤリスギの面も含め、楽しかった。可愛い女の子がちゅーしてくれたし。娘がかりに女優になったら、こんな芝居に出演して欲しくないけれど。私は観客としてまた体験したい。
マームとジプシーは前評判どおり素敵な芝居だった。破格の猥雑レビューであったバナナ学園を除くと、四団体のなかでは圧倒的に完成度の高い舞台を作り上げていた。茶色の薄暗い照明がセピア色に変色した写真のようなノスタルジックな味わいを作り出す。日常のごく短い時間が切り取られ、そこが執拗に何度も何度も、少しずつ角度を変えながら反復していく。最初は何が何やら解らない。しかし徐々にぼんやりと抒情に満ちたせつない時空の姿が立ち現れていく。見事な脚本と演出だ。あまりに評判が高い団体なので、逆に簡単には心を開かないぞという決意をした上で見たのだけれど、降参してしまった。やられた。気がつくと劇のなかの世界にひきずりこまれてしまっていた。