閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

エダニク

真夏の會
真夏の極東フェスティバル

  • 作:横山拓也(売り込み隊ビーム)
  • 演出:上田一軒(スクエア)
  • 出演:夏、原真(水の会)、緒方晋(the Stone Age)
  • 劇場:伊丹 AI・HALL
  • 上演時間:90分
  • 評価:☆☆☆☆★
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「エダニク」とは枝肉のことである。すなわち「家畜を屠殺後、放血して皮をはぎ、頭部・内臓と四肢の先端を取り除いた骨付きの肉」(『大辞林』)のこと。
真夏の會の公演を見るのは今回が初めてだった。役者三人によるユニットのようだ。今回の作品の登場人物は男三名のみだが、そのうち二名が真夏の會所属、一名は客演だった、作品は第一五回日本劇作家協会新人戯曲賞受賞作品。タイトルが示唆するように、食肉工場の職人休憩室が舞台となっている。登場人物は工場で働く職人二人とその工場の得意先である畜産農場の跡取り息子の計三名のみ。地味な主題で、シンプルな道具だての芝居であったが、会心の作だった。

まず脚本が素晴らしい。屠場を舞台にしているだけに、職業差別というデリケートな問題を避けて通るわけにはいかない。屠場の作業工程についてはやはりしっかりと取材されていることがうかがえる脚本だった。そしてこの職業をめぐる差別や生命の問題についてももちろん作品中できっちりと言及されている。しかしこの脚本の優れているのは、そうしたやっかいな問題に言及し、深刻な問題を織り込みつつも、そうした問題を喜劇的な会話のやりとりと軽快なテンポのなかで提示しているところにある。演出もまた重苦しい社会性を全面に出すのではなく、脚本の持つ独自の軽やかさを上手く引き出したものになっていた。三人の人物の人物造形も巧妙だった。タイプの異なる三人の男たちのやりとりの切実さと空回りには生活のリアリティが、悲喜劇的な状況のもとに凝縮され、表現されていた。