閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

立川志の輔独演会@練馬文化センター大ホール

志の輔の独演会は人気があってなかなかチケットがとれない。まあ、いつか聞く機会はあるかなと思っていたら、知人から誘いがあった。しかも場所はうちの近所の練馬文化センター。大ホールでの公演だった。1500人の客席が満席。志の輔人気は落語家のなかでもトップクラスだと言う。1500人の人間を噺だけで集めてしまうというのはいったいどういうことなのだろうか、などと思う。私は志の輔の噺を生で聞くのは今日が初めてだった。やはり面白い。二時間半、言葉の芸だけであれほどの充実感を味わうことができるとは。

前座の「元犬」のあと、志の輔は長いマクラのあと前半は「ハナコ」。中入り後は「中村仲蔵」。マクラで徐々にゆっくりと観客と呼吸を合わせているような感じがする。1500人の観客が彼にコントロールされている。舞台芸術というのは落語のような一人芸に限らず、集団催眠を連想してしまうところがあるのだけれど、落語のように言葉に多くを依存する芸だと尚更、催眠術ぽい雰囲気がる。マクラで、あるいは噺の冒頭で観客を、言葉による想像上の世界に引きずり込まなくてはならない。パントマイム芸は言葉を使わない芸能だが、観客をうまく同調させるところが鍵であるのは、落語と似ているように思える。ぐっと引き寄せられ、それから話者の言葉が喚起するイメージによって別の世界に連れ去れてしまうような感覚がある。

「ハナコ」、ありえないほど過剰に用意周到な旅館の女将の噺。この女将は客がサービスや料理などに対していだきうるあらゆる質問を勝手に想定して、先回りして説明する。牛肉偽装が問題になったころに作られた噺らしい。
後半は一時間を越える長編、「中村仲蔵」。大部屋から名題に成り上がった役者の噺。しばしば高座にかかる噺らしいが、私が聞くのは今回が初めて。松井今朝子の小説でこの噺をもとにしたものを読んだことがあり(『仲蔵狂乱』)、前から聞いてみたかった話だった。
客を思い切り感情移入させてしまう至極の話芸を堪能する。志の輔の「仲蔵」を聞いてしまった聴衆は「忠臣蔵」五段目を見たくなるに違いない。