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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

平原演劇祭2011第三部「鰤の会」@宮代町進修館食堂

「ゴドーを待ちながら」鰤をさばき食す 平原演劇祭第3部 宮代町 - 宮代NOW(出来事編)

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夏から秋にかけて三部に分かれて開催された平原演劇祭の全プログラムを、私は今年はじめて体験することができた。埼玉県宮代町在住の高野竜氏が10年まえから行っている演劇祭である。

最初は八月のはじめ、ぎらぎらと日差しが照りつける夏の日に、築200年の民家での芝居を息子と娘と3人で経験した。二度目は九月の夕べ、池のほとりで虫の声に秋を感じながら野外劇を楽しんだ。今日が三度目、宮代町の公営施設の食堂を使っての食事付き朗読劇と歌のアンソロジー。いずれも極めてユニークな趣向の企画だったが、平原演劇祭はその奇抜な仕掛けを通して、演劇ならではの特権的な時間の存在を気づかせてくれたように思う。演劇は日常と繋がりを持ち、その延長線上にありながらも、その特殊な時空の提示によって、束の間、観客を日常のくびきから解放し、はるか遠くの世界への扉を開く。平原演劇祭、第一部から第三部で合計15時間、ゆったりとした時間のなかで、何とも言えぬ穏やかな幸福感を味わうことができた。

平原演劇祭2011第3部「鰤の会」に娘と一緒に行った。「鰤の会」という名称が示すように、鰤を食べる会でもある。朗読やパフォーマンスの間に食事が入るという変則的な演劇祭なのである。

会場は東武動物公園駅からほど近い宮代町の施設、進修館の一階食堂。住民の集会所みたいな使い方がされているようだが、かなり変則的なデザインの建物で入口がどこかよくわからない。房みたいものが半円上に連なっている感じの建物である。この施設はコスプレ・イベントに毎月一回開放されていることでも知られている。

食堂は小中学校の教室ほどの広さだがその形はやはり変則的で、中に置いてある机や椅子、調理台の形状も変わっている。12時開始という予定だったが、正午直前に到着するとまだ準備の最中でこれから芝居が始まるという雰囲気ではない。料理の材料の下ごしらえをしているグループもある。演劇祭を主催している高野さん以外、知り合いと言えるような人もいないので、多少心細い思いをする。椅子に座っているのも手持ちぶさたな感じだったので、自家製の野菜の下ごしらえのグループに加わって、それを手伝った。野菜はタイとかでよく食べられてる空洞のある茎を食べるもの。空芯菜というらしい。ちょっと独特の香りがある。葉っぱはぬめりがあるので芯とは別に食べるのだそうだ。またやはり自家製のニラからゴミや枯れている部分を抜き取る作業をした。

そんな準備をしているうちに30分ほど過ぎる。最初の出し物は牛骨で出汁をとった白湯スープだったと思う。韓国のスープについて竜さんから説明があって、その後、モツやアキレス腱が入った白湯スープが振る舞われた。白湯スープの他にカクテキのキムチも出た。

最初の演目は高野さんによる無伴奏歌曲、「はやぶさ」。高野さんのバンドのために作った作品だが、バグパイプを伴奏楽器として指定していたため、これまで演奏機会がなかったという。スープの後に歌だったような気がするのだけれど、ちょっと順番はあやふやだ。この「はやぶさ」、詩も旋律も、そして竜さんの歌声も素晴らしく、ジーンと聞き惚れてしまった。進修館食堂は反響が強めの場所だったので、歌声が伸びやかによく響いた。

食事と演目のどちらが先だったあやふやになってしまったが、この三月、大震災の10日後に高野さんが書いた短いモノローグ劇、「遭難した船長の遺言」の朗読がその後にあった。遭難し、漂流を続ける船上で、船長が船員たちに自分の遺骸を食肉とするよう言い渡し、その処理の仕方を詳細に伝える話である。地震後、迷い混乱するわれわれのすがた、そして昨年、若年性アルツハイマー病の発病という事態に絶望を感じながらも、その絶望のなかで敢えて前に進もうとする高野氏自身の姿が、船長の語りから浮かび上がる。自分より後に生き残る者たちの生のために、船長は自らを捧げる。ごく自然なふるまいとして。厳粛な気分で彼の語りを私は聞いた。

演目のあいだには料理が入る。高野氏の息子(小4だったかな?)の見事な中華鍋さばきで作られた黄金チャーハン、それから高野氏による空芯菜とニラの炒め物、豚のテッポーとゴーヤーの回鍋肉が振る舞われる。テッポーは湯通ししただけでモツの臭みをあえて残す、ゴーヤもごつごつと大切りで苦みも残した豪快な炒め物だった。高野ジュニアの中華鍋さばきはリズミカルで実に見事。チャーハンというのはああいう風に炒めるのだなということがわかった。こちらのチャーハンも大好評だった。

「遭難した船長の遺言」の後の演目は、宮澤賢治の「イギリス海岸」の朗読。かなり長い作品。反響が大きい空間での朗読は案外聞きにくい。この演目のときは集中力が途切れ、ことばが頭に入って来ず、私は後半眠ってしまった。

「イギリス海岸」のあとは、つかこうへい翻案による「ゴドーを待ちながら」の朗読があった。「巷談 松ヶ浦ゴドー戒」というタイトルの作品である。高野氏の日記によるとつかが慶応大学在学中に書いた作品だという。いかにもつからしいエネルギーと奔放さが感じられる翻案ゴドーで、作品自体がオリジナルのゴドーの素晴らしい注釈、解説になっている。非常に興味深い作品である。ただオリジナルのゴドーを知らないとあまり楽しむことができない作品かもしれない。前半55分、後半35分の長い朗読となった。

朗読といってもこの演目は、打楽器の伴奏者一人と朗読者二人(高野氏と女性演者)の三人による、巷談語りの雰囲気も取り入れた身振りも含む、演劇的リーディングだった。高野さんも女性の演者も達者な語りと演技の大熱演ではあったが、55分の長さ、私はこれも集中力が途切れ、途中眠ってしまった。

こっちの受容能力の問題であるが、語りの技術の面でも難があったように思う。語りの音量はかなり大声だったが、室内で反響してさらに増幅され、言葉は聞こえるものの頭の中に内容が全然入ってこない。声が大きければよいというものではないと思う。部屋の大きさ、聴衆の数、室内の反響に応じた効果的な声の大きさというのがあるように思った。声色の変化や動きなどの工夫があったにも関わらず、単調に感じられた。もう一点気になったのは、リーディングということで台本を手に持っての公演となったこと。これは仕方ないのであるが、本を持つと持たないでは、聞き手に及ぼす迫力の点で決定的に違いがある。もし本を持たないでの口演であれば、印象は全然違ったように思う。

つか版ゴドーの前半55分が終わった後は、鰤の解体ショーが始まった。待ってましたという感じ。輪島産の七キロの鰤の迫力はすごかった。大きなまな板の上にごろりと丸ごとのせ、それを高野さんが大きな包丁でさばく。厚さ1センチぐらいの超厚切りの刺身が振る舞われた。脂がのっていてむちゃくちゃうまい。ピラニアの群に襲われたかのようにお刺身は瞬く間になくなってしまった。かま塩焼も出たが、私は刺身とご飯でお腹いっぱいになってしまった。

鰤のあとは再び演目上演。まずアル・ヤンコビックとボー・デレクという女性二人組のデュオによる歌があった。まず鍋とか鍋のフタとか叩きながら歌うだらだらとした戯れ歌からはじまる。そのあと二人のあいだで、日常の中でのかみ合わない会話を模倣したような不思議な雰囲気のやりとりがある。この奇妙な会話から、すっと歌に入る。ちょっと意表をつかれた感じ。「あっ」と思うと、歌の世界に引き込まれていた。歌のことばと旋律がとても美しかった。全部で5分ほどの演目だが構成に工夫があった。各パートの跳躍ぶりがとてもいい感じで、詩のようだった。実は私は第三部ではこの演目が一番気に入ったかもしれない。

女性デュオによる歌のあとはつか版ゴドーの第二部。今度は35分と前半より短く、演者ののりに同調することができて、前半より楽しんで聞くことができた。鰤を食べて体力回復したのも、よかったのかもしれない。

ゴドーのあとは梨休憩。大量の梨をむさぼり食う。鰤の脂でぎとぎとという感じだったので、梨の水分とあっさり風味がとても心地よい。

梨のあとは最後の演目である。若い女性の語りによる高野竜作「アラル海鳥瞰図」の抜粋の朗読。もともと「アラル海鳥瞰図」は独白によって構成されている戯曲である。既に日は落ちて、外は暗くなっていた。窓の外からは虫の声が聞こえるなかで朗読ははじまった。たまらないほど美しいテクストである。広大な白い砂地が静かに滑らかに掃き清められる感覚というか。女性による語りの言葉のひとつひとつが胸に染みこんでいく。この作品をいつか全編、舞台で見てみたい。演劇を作った経験のない私には不可能な夢なのだけれど、もし私に演出ができる能力と機会があったなら、この作品を演出してみたい。しっとりとした余韻が残る演劇祭の最後だった。
いやいや、それから最後の最後に皆で合唱したのであった。ああ、楽しかった。最後までいてよかった。全プログラム終了は18時半を過ぎていた。なんと六時間半のイベントとなった。

おみやげに鰤のあらともみじの酢コケをもらう。
帰り道、娘に平原演劇祭の感想を聞いた。
「いや、すごかったよ」
「何がすごかった?」
「何がって、全部だよ」

貰った鰤のあらは大根と一緒に煮て今晩おいしく頂きました。
酢こけは妻が晩酌のつまみにするといって冷凍してしまいました。

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平原演劇祭 2011 第三部「鰤の会」
2011年10/9 12時〜18時半
出演:
高野竜
耼田聡美
伊藤紀克
泉田奈津美
遠藤まいこ
田部井勝
斉藤ヒナコ
松本萌 ほか



演目:
歌「はやぶさ
朗読「遭難した船長の遺言」
朗読「イギリス海岸」(宮澤賢治
朗読「ゴドーを待ちながら」(つかこうへい)
朗読「アラル海鳥瞰図」

ゲスト演目:
Advanced Theater Project + Team BOB
アル・ヤンコビックとボー・デレク



メニュー:
トガニタンスープ
黄金チャーハン
豚のテッポーとゴーヤーの回鍋肉
ブリ一本お造りとカマ焼き
梨のデザート
鶏モミジの酢コケ(おみやげ) ほか