閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

Kと真夜中のほとりで

マームとジプシー
Kと真夜中のほとりで : マームとジプシー

  • 作・演出:藤田貴大
  • 舞台監督:森山香緒梨、加藤唯
  • 照明:吉成陽子、山岡茉友子
  • 音響:角田里枝
  • 出演:伊野香織 大石将弘(ままごと) 大島怜也(PLUSTIC PLASTICS) 荻原綾 尾野島慎太朗 川崎ゆり子 斎藤章子 坂口真由美 高橋ゆうこ 高山玲子 成田亜佑美 波佐谷聡 萬洲通擴 召田実子 吉田聡
  • 上演時間:2時間
  • 劇場:こまばアゴラ劇場
  • 評価:☆☆☆☆★
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マームとジプシーは、ここ1、2年のあいだに急に小劇場ファンのあいだで話題になり出した劇団だ。作・演出の藤田貴大はまだ26歳だという。
2007年からマームとジプシーは活動しているらしいが、私は6月に芸劇eyes「20年安泰」という企画で、20分ほどの小品を見たことがあるだけだった。短い作品ながら極めて独創的な仕掛けの演出はインパクトがあった。

長い作品の公演を観るのは今回が初めてである。6月に見た短編作品で使われていた反復の手法が今作ではさらに徹底され、その重なりが厚みのあるイメージを作り出していた。ほとんどダンスといってもいいような特徴的で動きは、本公演ではさらに激しく、ダイナミックなものになっていた。多彩で繊細な照明効果の利用、音楽の選曲のよさとその使用のタイミングのよさも際立っていて、非常に洗練された舞台を作り出している。ミニマル音楽の手法を演劇的なかたちで再現される。ノスタルジックな青春期の思い出を追想するという主題もこの手法に合っている。

上演時間は2時間。最初の30分ほどは眠ってしまった。冒頭は舞踊的な身体表現と歌謡的な台詞が続く。最初のうちは設定や展開がよめず、演出上のギミックに幻惑され、酔っ払ってしまうような感覚である。30分眠って覚醒し、残り90分はちゃんと見た。

消え去っていく時間。埋没していく私。執拗な同じ場面の反復は、そうした消失に抵抗しようとする「私」自身の姿の隠喩のようだ。繰り返し、繰り返し、同じ時間を何度もなぞることで、どうにか消失から踏みとどまり、自分自身を取り戻すことができるような気がする。

極めて技巧的でありながら、恐ろしく暑苦しく、青臭くも感じられる表現は、時間というどうにも対抗しようのない現象に対して絶望的な格闘を描き出している。過去が失われてしまうのを恐れ、猛烈に必死にもがく若者たちの姿が、激しい動きと声の交錯のなかに浮かび上がる。
たぶんもがくのをやめてしまったときに、人々は忘却を受け入れ、惰性のなかで生きていくことのできない大人となっていくのかもしれない。

面白かったし、感心もしたのだけれど、観劇後の感動の忘却も激しい。すーっと消えていく。一ヶ月たった今では、芝居の印象はものすごくあやふやなものになっている。主題的な面で、私とは大きな世代ギャップがあるからだろうか。