閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

吉例顔見世大歌舞伎 夜の部

歌舞伎美人(かぶきびと) | 吉例顔見世大歌舞伎の演目と配役
一、歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり)
二、京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
三、髪結新三(かみゆいしんざ)

松緑の「外郎売」、菊之助の「娘道成寺」、菊五郎の「髪結新三」の三本。時代物、舞踊、世話物を定番の演目で味わう。菊五郎松緑菊之助時蔵といった菊五郎劇団の面々に加え、三津五郎左團次田之助と面子も充実している。

物売りの口上の模倣が入る「外郎売」を見てみたかった。私はこれまで見たことがなかった。中世フランスの芝居にやはり香具師の口上を模倣した芝居がいくつかあって、そこから歌舞伎で売り込み口上がどう演劇的に扱われているのか確認したかったのだ。松緑は威風堂々で発音も明瞭で、私は好きな役者だ。擬音語を豊富につかった言葉遊び、聞いていて心地よい。外郎というと名古屋名物の菓子を思い浮かべていたのだが、歌舞伎の「外郎売」が売っているのは「薬の一種。痰をきり、口臭を除く丸薬。江戸時代、小田原の名物として有名」のことだった。

菊之助の踊る道成寺は、「京鹿子」以外のものをこれまで二回見ている。玉三郎と踊った「二人道成寺」と松緑と踊った「男女道成寺」だったと思う。多彩な踊りと衣裳によって菊之助の女形としての美しさを堪能できる演目。最初はちょっと眠たかったが、手拭いの踊りあたりから一気に引き込まれ目が覚める。

最後は世話物。菊五郎の『髪結新三』。三津五郎が大家で、この二人のやりとりならさぞかし面白いかと期待していたのだけれど、このやりとりの場面が案外冗長、単調で何度か寝落ちしてしまう。それでも菊五郎の新三はやはりかっこいい。新三の子分、勝奴を菊之助が演じた。この勝奴のチンピラぶりが、スマート、粋でかっこいい。大詰の立ち回りがもりあがったところで、ストンと切り落としたような幕切れ。からっとした後味。爽快な気分で劇場を出た。歌舞伎ならではの時間を十分に楽しむことができた。