閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

エレクトラ─オレステスを待ちつつ

SCOT
http://www.scot-suzukicompany.com/season9/

  • 原作:エウリピデス/ホーフマンスタール
  • 演出:鈴木忠志
  • 出演:郄田みどり、ビョン・ユージョン、内藤千恵子、佐藤ジョンソンあき、竹森陽一、他。
  • 劇場:吉祥寺シアター
  • 上演時間:70分
  • 評価:☆☆☆☆
              • -

ギリシア悲劇だが、台本のベースとなったのはホフマンスタールの戯曲とのこと。ホフマンスタールの戯曲はソフォクレスの戯曲をもとにしているが、かなり近代的な性格付けがなされているらしい。ホフマンスタールの戯曲は、リヒャルト・シュトラウスによってオペラ化されて、最近ではもっぱらオペラで上演されている。

戯曲はかなり圧縮されている。愛人と共謀して夫を殺した母である王妃を激しく憎悪し、兄弟であるオレステスをそそのかして、母を殺害することで、父の復讐を遂げる、というのが話の大枠だが、鈴木版では、母娘の激しい葛藤と行方知らずになっていた弟、オレステスの帰還を熱望するエレクトラの姿にドラマを集約させている。

演出の意図についてはパンフレットで説明されている。「解決不可能な状況のなかで、人間はどのような精神状態と言動を展開するのか」を効果的に表現するために、世界を「病院」になぞらえ、車椅子と看護婦という鈴木作品特有の記号を用いる。また打楽器奏者、郄田みどりは開演前から舞台上に姿を現し、上演中も舞台の上手側で、強烈な存在感を放ち続ける。

エレクトラ役は韓国人女優のビョン・ユージョンが演じた。美しい顔立ちの女優だ。彼女はほとんどまばたきをせず、舞台上でずっとこちらをにらみつけている。その目の圧迫力は驚くべきものだ。彼女の話す台詞はあまり多くない。その台詞は字幕なしの韓国語で話される。動きも限定的でじっとしていることが多いのだけれど、時折挿入される唐突で特徴的な動きはとても印象的だ。母親殺害の後は、打楽器の演奏に合わせ、痙攣しながら、不器用なマリオネットのような独特の激しい動きで、狂乱を表現する。圧巻だった。とにかく強い表現の女優だった。

作品全体としては、エレクトラの思い描く情念のうねりが、エレクトラを核に、彼女の対話者である母親クリテムネストラ、姉妹のクリソテミス、そして車椅子のコロスと打楽器の協調によって総合的に視覚化されているような感じがした。私には展開する場面がすべてエレクトラの妄想の世界のように感じられた。

舞台はほぼ素舞台だったがが、照明と人物の動き、配置によって、禁欲的でかつ象徴性の高い、美しい舞台が提示されていた。

鈴木忠志作品とはあまり相性がよくないのだけれど、キッチュな和風趣味があまり入っていないギリシャもの、『バッカイ』と今回の『エレクトラ』は好きな作品だ。