閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

星の結び目

時間堂
http://jikando.com/

  • 劇作:吉田小夏(青☆組)
  • 演出:黒澤世莉(時間堂)
  • 照明:工藤雅弘、吉村愛子
  • 衣裳:阿部美千代
  • 舞台監督:藤本志穂
  • 出演:鈴木浩司、菅野貴夫、直江里美、ヒザイミズキ、窪田優 (以上、時間堂)、荒井志郎(青☆組)、木下祐子、斉藤まりえ、酒巻誉洋、猿田モンキー、山田宏平(山の手事情社)
  • 劇場:こまばアゴラ劇場
  • 上演時間:二時間
  • 評価:☆☆☆☆
                                      • -

黒澤世莉が主宰する時間堂の公演。今回の公演の脚本は、青☆組の主宰、吉田小夏によるもの。時間堂および黒澤世莉演出の舞台はこれまで何回か見ている。戯曲を素材として扱い、自分の世界に引き込んだ上で演出家の創意を全面に押し出すのではなく、戯曲の持ち味を尊重し、その読解から導き出される世界を、丁寧にわかりやすく描き出すというタイプの演出家だ。まだ30代の若い演出家である。
吉田小夏は青☆組という劇団の主宰者でもあるが、私は彼女の作品を見るのは今回が初めてだった。た。

東京の裕福な氷商の人間模様を、その女主人を中心に描く大河ドラマ風の作品。その氷商に奉公していた女中が狂言回しを演じる。商家が没落した戦後から、その商家の戦前を振り返るという一種の枠物語形式になっている。抒情的な美しさを備えたノスタルジックな昭和史劇という趣で、詩的で台詞がところどころ散りばめられている。ただ脚本、演出ともに、巧さ、そつのなさが際立っていたためか、若干、人工的で類型的な感じもした。教科書のお手本のような感じというか。
新劇、あるいは新派で上演されてもおかしくないような、普遍的な物語、女生涯もの。平田オリザの『ソウル市民』の商家も連想される。商家の人々のキャラクターや事情が丁寧にかき分けられていて、見応えのある面白い作品だった。 演出も現代口語的な抑制されたリアリズム演技で、洗練されている。BGM を一切使わない演出。舞台はほぼ正方形の抽象舞台で、客席を横断する「花道」があり、その花道を通って役者たちが入退場する。能舞台の構造を連想させる簡素な作りの舞台で、象徴的な雰囲気を出してきた。
昭和戦前の物語なので女優は着物を着ている。一人の役者が複数役を演じることが多いので、早替わり的に着物を着替えることで役柄を違いを表現していた。 その着物の色合いのセンスのよさも印象に残った。

完成度の高い、よくできた作品だったが、内容・題材的にはNHKの朝の連続ドラマにとりあげられそうな通俗なものであり、なぜ30代の若い作家と演出家、そして役者たちが、こういう題材の作品を作りたいと思ったのか、ちょっと不思議な感じがする。まあ平田オリザは20代のときに「ソウル市民」を書いたわけなのだが。内発的な動機というより、何か別の要請があってこの題材を選んだのだろうか? 演出、演技の洗練ゆえによりいっそう、こうした題材の芝居を若い演劇人が今作ることには、どこかとってつけたような不自然さを感じてしまう。これが新作戯曲であるだけに。

とツイッターに感想をつぶやくと、作者の吉田小夏さんから返事を頂いた。基本的にはフィクションだが、自分自身の祖父母の体験などがエピソードのなかで生かされているとのこと。「大きな物語」を演出家から要請されたときに、自分自身の家族のルーツ、一族の年代記を思い浮かべたようだ。