閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

サド侯爵夫人

『サド侯爵夫人』 | 世田谷パブリックシアター/シアタートラム

ルネ(サド侯爵夫人)を演じた蒼井優をはじめ、魅力的な女優六人による『サド侯爵夫人』ということで、かなり期待して観に行った。しかしプレビュー公演ということもあるためか、三島戯曲の分厚い装飾が施された演劇言語をどの役者もいまひとつ消化しきれておらず、その重量に振り回されているという印象の舞台だった。一幕冒頭の麻実れいと神野三鈴が演じる善・悪(偽悪/偽善かもしれない))を象徴する対照的な人物のやりとりによって、物語の背景を明らかにする場面はとてもよかった。麻実れいの立ち振る舞いは堂々たる貫禄があってかっこいい。それぞれの役者の持ち味を味わう箇所はあったのだけれど、3時間を超える長丁場、客である私だけでなく、演者のほうも緊張感を維持することができなかったように思えた。とにかく全編、オペラのアリアのような修辞的な言葉が続く。長台詞は基本的に相手でなく、観客に向かってまさにアリアを歌うかのように語られることが多かった。しかし写実を廃したそのスタイルは不徹底で、三島の台詞の装飾性、修辞性が効果的に提示されていたようには思えない。

ほとんどモノローグの連鎖ともいっていい華麗で重厚な台詞がもたらす対比的な効果を楽しめる時間もあったけれど、全体的には重苦しくて、単調な芝居だったと思う。白石加代子の怪演は好き嫌い分かれるところだろう。あまりの妖しさと誇張ぶりに笑いが起こっていたけれど、芝居の重さを打破するほどの効果はなかったと思う。蒼井優ちゃんはやはり可愛らしかった。特に三幕の蒼井優はとても愛らしい。でもあの見かけの可憐さと同時に、どうしようもないエロさも欲しかった。長台詞で後半は単調、類型に陥ってたけれど、発話自体は明瞭でよく劇場に響いていた。
町田マリーも出ていたが、女中役で出番があまり多くなく、その存在感をアピールすることはこの芝居ではできなかった。

服装は各人物、色合いや様式が異なるものを身につけていて、服装自体で各人物の個性がはっきり示されていた。しかし視覚的にはばらばらで、雑然としたものに感じられた。わたしはあまり効果的だったとは思わない。うまくて魅力ある役者を集めれば、その役者の技術と存在感の相乗効果で面白い芝居ができるように思うのだけれど、しかしその個性を一つの作品のなかでまとめるには演出家の戦略の介入が必要だ。しかしこの芝居には野村萬斎のそうした意図を感じ取ることが私にはできなかった。