閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

モノ語り☆水仙月の四日

genre:Gray 利己的物体と奉仕的肉体によるグロテスク unco happy!
第3回 人形演劇祭"inochi"
unco happy!なモノたち:So-netブログ

  • 原作:宮沢賢治
  • 作劇・演出:黒谷都
  • 美術監修:松沢香代
  • 人形・オブジェ:渡辺数憲(赤いケットの子供)、北井あけみ(雪狼)、松沢香代(オブジェ)
  • 音楽:原田依幸
  • 音響:青木タクヘイ
  • 照明:しもだめぐみ
  • 劇場:せんがわ劇場
  • 評価:☆☆☆
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人形遣いの黒谷都さんたちによるユニット、unco happy!の公演を観に行った。黒谷都さんは人形芝居の世界では大変有名な人のようだが、私が彼女を知ったのは昨年十二月である。白百合女子大であった人形劇研究者の加藤暁子さんの講演会に行ったときに、会場にいた黒谷さんと話す機会があった。加藤暁子さんについては、彼女の書いた『日本の人形劇』を私は何年か前に読んでいた。近代以降の日本における西洋人形劇の歴史について書かれたこの著作を読んだことがきっかけで、私は大人向けの人形劇の世界を知り興味を持つようになった。

日本の人形劇―1867‐2007

日本の人形劇―1867‐2007

白百合での講演会は、調布のせんがわ劇場を中心に行われる「第3回 人形演劇祭"inochi"」のプレイベントになっていて、黒谷さんは今回の公演で使う人形をその時持ってきていた。渡辺数憲氏作の人形の造形の精巧さ、リアルさに惹かれただけでなく、人形に取り憑かれて傀儡師としての人生を送る黒谷さん自身が発するオーラも強烈で、私は3月のこの公演に興味を持った。
もともと3月のこの時期はパリ旅行の予定でこの公演は見に行けないはずだったのだが、出発直前の岳父の逝去によりパリ旅行が中止になり、見にいくことができるようになった。

今回の公演では黒谷都、塚田次実(モノ遣い)、期待あけみさん(人形遣い)に、舞踏手の小倉吉博が加わって、「unco happy!」というプロジェクト名での公演となった。ちなみに「unco happy!」は「とっても幸せ!」の意味で、読み方は「アンコウ・ハッピィ」。「ウンコ・ハッピィ」ではないことに注意(といっても後者の読みも掛詞になっている気がするが)。

さて公演であるが、宮澤賢治の「水先月の四月」、「ガドルフの百合」に基づく(私はどちらも未読)「モノ語り」となっていたので、語りを伴う人形劇を思い浮かべていたのだけれど、実際には私の想像とはまったく異なるものだった。幻想的で抽象的なシークエンスによって構成された無言劇だったが、人形が主役の芝居ではなかったのである。演者は白塗り、白装束で、全体的には舞踏的な性格が強いパフォーマンスであり、人形は最後のほうにしか出てこない。人形芝居と言うよりは、人形やオブジェを使った舞踏的パフォーマンスと言うべきものだった。人形芝居を期待して見にいったのに、人形がフィーチュアされていないのは、私にとっては非常に不満な点だった。音楽の選曲はよく練られていたけれど、構成、演出には、私はとりたてて魅力を感じなかった。
視覚的には洗練された舞台ではあったが、それほどオリジナリティがあるとは思えない舞踏的パフォーマンスを延々と見るはめになったことに、釈然としない気分であった。美術や演技のクオリティは相応のレベルにあったかもしれないが、率直に書くと、思わせぶりの表現が連なる肩に力の入った感じのパンフレットの文章の調子も含め、内輪の知り合いの観客に向けられた閉じた公演であるように私には感じられた。