閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

椿姫

2011-2012 | 演目紹介 | METライブビューイング:オペラ | 松竹

今シーズンの最後のMETライブビューイング。
ヴィリー・デッカー演出、ナタリー・デセイがタイトルロールを演じるヴェルディの《椿姫》を見た。上演時間は休憩30分を挟み2時間46分。
抽象的な舞台美術が印象的だ。内側に湾曲した高い壁で囲まれた無機的な空間で、壁沿いに長いすが設置されている。上手に巨大な時計が置かれている。時計の時の刻みが、ヒロイン、ヴィオレッタの死とドラマの終末を示す。シンプルで象徴的な舞台装置を背景に、深紅のドレスを身にまとったヴィオレッタと彼女の座るソファ、そして黒服のコーラスたちの色彩の対比が視覚的にも非常にシャープで美しい。
有名な《乾杯の歌》など名曲が並ぶ一幕30分の密度の高さ、歌手たちのパフォーマンスの素晴らしさにはくらくらした。METのサイトに映像の抜粋がある。
http://www.metoperafamily.org/metopera/broadcast/video/la-traviata.aspx

登場人物の立ち位置がしっかりと決まっていて、舞台上に緊張感ある造形美を作り出している。デッカーは洗練されたセノグラフィを提示するだけでなく、演技の演出も緻密だ。歌手たちはこの舞台ではそれぞれ優れた役者でもあり、ドラマとしての《椿姫》を楽しませてくれた。
デセイは、すっかり婆さん顔になっていたのがちょっとショックであるが、やはり歌唱、そして演技のパフォーマンスは素晴らしい。彼女の演技と存在感はオペラ歌手の中では別格だ。アルフレード役のテノール、ポレンザーニもよかった。
デッカーは何年か前にウィーンの劇場でネトレプコ主演による《椿姫》を上演している。今回の演出プランはこのウィーン版をそのまま流用したもののようだ。DVDを借りたのであとで見てみたい。

照明、人物の動き、コーラスの処理などの様々な創意によって、悲劇的な物語の展開が効果的に暗示される。丁寧なテクストの読み込みが感じられる演出だった。音楽的表現と演劇的表現が有機的に結び付き、奥行きのあるドラマを作り出していた。

デッカーの名前、どこかで聞いたことがあると思えば、2008年に新国立で上演されたツィンマーマンの《軍人たち》の演出家でもあった。あれも実にかっこいい舞台だった。