閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

生田粋ライブ

  • 場所:お茶の水 Woodstock Cafe
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お茶の水にある20人ほどのキャパシティの小さなライブスペースに、生田粋という20代女性ミュージシャンの弾き語りコンサートを聞きに行った。マイミクの一人が強力に推しているシンガーソングライターで、今回のライブはそのマイミクが企画したものだった。
開演の10分ほど前に地下にあるそのライブスペースに降りていくと、店内に入ったところで可愛らしい女性が声を掛けてくれた。それが生田粋さんだった。ツィッターなどでやりとりは数回あったけれど、会うのは今日が初めてだった。星や空などの自然が大好きだという彼女の見た目もまたナチュラルな雰囲気の女性だった。こんなに若くてきれいな人からいきなり愛想よく話しかけられると、私はどぎまぎしてしまうのだけれど、昨夜は緊張することもなくリラックスして言葉を交わすことができた。客はおやじだらけ。そのなかに若い女性の観客が二人。若い男性も3人いたか。

今夜はアコースティック・ギターの弾き語りによるソロ・ライブで、間に休憩をはさんで約100分ほどのパフォーマンスだった。歌声、音楽が誰かを連想させるなあと思いながら、それが誰だか思い浮かばない。フォーク・ミュージックの王道を行くようなエモーショナルで真っ直ぐな音楽だった。今、アイルランドのThe Framesのグレン・ハンサードが思い浮かんだ。でも聞いているときに想起しようとしたのは別のミュージシャンであるような気もする。

正直なところ、前半は彼女の音楽にあまり入り込めなかった。特に歌詞が頭に入ってこないまま、通り過ぎていく。前半の最後にアカペラで歌った《こきりこ節》はいいなと思ったけれど。休憩後、後半に入ってしばらくすると、彼女の音楽の世界に同調できるようになった。力強いが優しいゆったりとした音楽なので、一度入ってしまえば、何時間でも聞き続けられるような感じがする。

よいライブは、音楽でも演劇でも、共有している時空を通して、まったく別の世界に魂を連れて行ってくれるような気がする。幻覚などに陶酔することをトリップというが、舞台芸術のアーティストはその技芸を通して、観客、聴衆を異世界への旅に誘うガイドのような能力を持つ人たちだと思う。彼女の音楽がもたらすそういった旅の感覚を私は後半、充分に堪能した。熱狂的な興奮を呼び起こす音楽ではなく、ゆったりとした安らぎのなかに引き込んでいくような音楽だった。曲名は忘れてしまったけれど、アンコールの前に演奏した最後の二曲が特によかった。星のことを歌った歌だったように思う。

生田さんはまっすぐで心のきれいな人なのだろうなと思った。日常の中で傷ついたりすることは多いのではないだろうか。彼女の飾らない伸びやかな音楽を聴いていると、自分もうじうじといじけ、ひねくれていないで、背筋を伸ばしてまっとうに生きていかねばなぁ、という気分になった。

音楽を聴いた後の陶然とした気分の余韻を楽しみながら、ライブが終わった後、メトロの駅までゆっくりと歩いた。