閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ガリレイの生涯

演劇集団円
ガリレイの生涯

  • 作:ベルトルト・ブレヒト
  • 訳:千田是也
  • 演出:森新太郎
  • 美術:伊藤雅子
  • 照明:佐々木真喜子
  • 音響:藤田赤目
  • 衣裳:koco
  • 出演:吉見一豊、高橋理恵子、野村昇史、柏木隆太、佐藤芳江、他
  • 劇場:三軒茶屋 シアタートラム
  • 上演時間:3時間
  • 評価:☆☆☆☆
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ブレヒト『ガリレイの生涯』を見るのはこれが初めて。演出は森新太郎。
天動説を支持したことでカトリック教会から糾弾され、その撤回を強制された一六世紀後半から一七世紀前半にかけてのイタリアの天文学者、ガリレオ・ガリレイの話である。ガリレイについては私が持っていた知識と言えばほとんどこれぐらいしかない。小学生のころに学研の歴史マンガで読んだことがあるくらいだ。
14場からなる二幕構成で上演時間は三時間(休憩のぞく)という長い芝居だったが、登場人物のやりとりにメリハリがあり、展開のリズムもよくて長さはそれほど気にならなかった。カトリックによる地動説の否定は、当時のカトリック教会の頑迷な聖書原理主義を感じさせるエピソードであるが、権力を持っている社会集団が、自分にとって都合の悪い真実を語るマイノリティや個人を暴力的手段でもって押さえ込むというのは、現代においてもいろいろなレベルで日常的に行われていることだ。『ガリレイの生涯』は、ガリレイという一知識人の生涯を題材に、古来からうんざりするぐらい繰り返されているこうした愚行を、凝縮されたドラマとして提示する秀作だった。ガリレイは、信念を守るために権力と徹底的に争わなかった。教会の圧力に屈し、自説を撤回し、弟子たちの信頼を失った。しかし教会の監督下でほぼ幽閉された状態だった晩年に、『新科学対話』を著し、その現行は当時、出版の自由があった新教国オランダの都市、アムステルダムに密かに持ち込まれ、出版された。
こうした生き方は、時代、国、分野は異なるが、トマス・モアの処世を連想させる。モアは最終的には処刑されてしまったが、国王ヘンリー八世との対決をできるだけ回避しようとし、凝った文体のラテン語で書かれた『ユートピア』を残すことで当時のヨーロッパ、イギリス社会の悪徳を間接的なかたちで批判した。当時の国際言語であるラテン語で書かれた『ユートピア』はモアの死後、ヨーロッパ各地の知識人のあいだで広く読まれ、多大な影響を後世にのこした。

主演の吉見一豊の自己陶酔を感じさせるオーバーアクションは私は苦手だし、他の演者の芝居もいささか熱くてくどい。果たして『ガリレイの生涯』にふさわしいスタイルの演技なのか私は疑問だけれども、しかしこうした過剰な芝居くささによって物語の輪郭がはっきりし、わかりやすくなっていたことは事実だ。
舞台美術はよかった。剥がれた漆喰の壁に囲まれた奥行きのある広い部屋で、床にはノートの類がまき散らされていた。