閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

少年と自転車(2011) LE GAMIN AU VELO

  • 上映時間:87分
  • 製作国:ベルギー/フランス/イタリア
  • 初公開年月:2012/03/31
  • 監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
  • 脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
  • 撮影:アラン・マルコァン
  • 美術:イゴール・ガブリエル
  • 編集:マリー=エレーヌ・ドゾ
  • 出演:セシル・ドゥ・フランス、トマス・ドレ、ジェレミー・レニエ
  • 評価:☆☆☆☆★
  • 映画館:早稲田松竹
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早稲田松竹ダルデンヌ兄弟の二本立てを観に行った。二作ともダメな父親とその犠牲になった息子の話だった。この二組の歪んだ父子関係は、現代のベルギーの社会が抱える歪みを反映している。どちらも社会の底辺に生きる人たちの何ともやるせない現実をまっすぐ描いた作品だった。しかし作品のなかでずっと提示される閉塞的状況にもかかわらず、映し出される映像は抒情的で切ない美しさに満ちている。
イゴールの約束」はベルギーにやってくる不法滞在移民を食い物にして生活する父と、その父の分身として悪事に手を染める少年の物語だった。この父子は強力な依存関係にある。息子は父の支配から逃れられない。しかしある日起こった、移民の転落死とその隠蔽という重い事態に、まだ幾分かのナイーブさを残していた思春期の少年は耐えきれなくなる。この事件が息子が父から逃れでようとする契機となる。転落死した移民の若妻と乳飲み子を連れての逃避行によって、息子は父と決別しようとした。しかしその振る舞いはあまりに無計画で衝動的なものだった。若妻の夫が死んでしまったという事実を黙っておくことに息子は耐えられなくなる。真実を告白することによって、許され、解放されることを願うのだけれど、告白の結果は苦いものとなった。

「少年と自転車」は父親によって孤児院に捨てられた12歳の少年が主人公である。偶然出会った美容師の女性が彼を受け入れようとし、その思いを少年は理解しているのだけれど、彼は女性の願うようには行動することができない。父親に捨てられたという心の傷が、女性の愛情を素直に受け取ることを拒み、少年は女性の期待を裏切り続けるという自虐的行為でしか彼女に応えることができないのだ。父親に捨てられたことによる深い心の傷のありようが、執拗に描かれる。終わりのほうで少年の将来に希望を垣間見せておいて、最後のシーケンスはその希望的結末を絶妙の逆説的表現によって反転させる。このラストは本当に素晴らしい。最後の最後でまた観客は少年の心の痛みを突きつけられる。