閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

アンダスタンダブル? Understandable ?

五反田団・劇団ASTROV

  • 作:前田司郎
  • 演出:Jean de Pange
  • 出演:黒田大輔(The Shampoo Hat)、西田麻耶、宮部純子、Claire-Hélène Cahen, Pierre Mignard, Volodia Serre
  • 劇場:五反田 アトリエヘリコプター
  • 上演時間:80分
  • 評価:☆☆☆★
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ひさしぶりに五反田団を観に行った。今回はフランス人の演出家、役者との共同製作作品。脚本は前田司郎、それをフランス人演出家、ジャン・ドゥ・パンジュが演出し、役者は日本人が3名、フランス人が3名。日本語と英語とフランス語使用するが、字幕なしで観客が理解できる、という条件で作った芝居ということで興味をそそられた。

舞台はほぼ素舞台で、背もたれのない細長いベンチが3脚並んで置いてあるだけである。日本人男性1名と日本人女性2名が下手側のベンチに座り、フランス人女性1名、フランス人男性2名が上手側のベンチに座る。劇中で行われる中心となるのは日本人男性とフランス人女性の組合せだ。後の二人は、中心となる男女の分身的存在で、二人のやりとりを補完するかのようなやりとりを行う。
日本人男性役は黒田大輔。彼は向こう側に座るフランス人女性が気になってしかたない。おずおずと不器用に声をかける。しかし二人の共通言語は拙い英語だけである。この英語もなかなか伝わらない。日本人男はフランス人女性に電撃的に恋をしたらしい。フランス人女性はこのあまりに唐突な恋の告白を退けるのだけれど、その拒絶がなかなか伝わらない。そして拒否されていることがわかったあとも、日本人男は不器用にかつ執拗に恋の告白を繰り返す。「I love you」。
この最初の告白と拒否のやりとりが繰り返されるさまがとても面白い。異言語コミュニケーションの齟齬が極端に強調されて、不条理劇的な笑いを作り出していた。黒田大輔のずうずうしさ、どんくささに何度も爆笑する。通じない悲しさとおかしさ、喜劇的な誇張はされているけれど、カタコト外国語でのやりとりというのはまさにこんな感じだ。根本的な何かは伝わったような気がするけれど、膨大なエネルギーと時間を費やして意思疎通を図った結果が、結局は誤解に終わったりする。いや誤解だったことにも気づかないことも実は多いだろう。

中盤は日仏6人が映画を一緒に観に行くことになる。映画の中の情景が劇中劇としてパントマイムで演じられる。その後は美術館でデート。見て回る絵が活人画で再現されていく。こうしたシーケンスでのギャグは、言語が必要とされない定型的な身体の笑いであり、あまり前田司郎っぽい独自性は乏しいように思う。それでも黒田大輔のタイミングがずっとずれているようなぼやけた芝居はおかしかったが。ギャグの単調さに少々飽きてしまったうえ、照明が暗かったので、後半部、ちょっと落ちてしまう。

日本人男は最後までしつように恋の告白を続ける。最後の場面は、「I want touch you」の言葉とともに日仏の6人が接触、抱き合うことによって理解に至るというハッピーエンド。気持ちのよい終わり方でちょっと感動させるところもあるけれど、私にはこの結末が楽天的過ぎるように感じられた。コミュニケーションというのは、特に異言語間では、「わからない、わからない、ちょっとわかる、うれしい、でもやっぱりわかりあえてなかっことを確認して落ち込む」の繰り返しだと思う。わかりあえたのは多くの場合、錯覚に過ぎない。でもその錯覚のもたらす喜びと快感は、数回の失望を補って余りある。この芝居の最後もやはり解り合えないことの絶望、失意を示唆するものだったほうが、私にはしっくりくる。