閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

アルバレス・キンテーロ兄弟「アメリカの発見」(1928年)

現代世界戯曲選集〈第4〉南欧北欧篇 (1953年)

現代世界戯曲選集〈第4〉南欧北欧篇 (1953年)

  • 作:アルバレス・キンテーロ兄弟 Serafin Y Joaquin Alvares Quintero
  • 訳:池田宏
  • 原題:La Nina de Juana o El descubrimiento de America

山室静、合田由編『現代戯曲選集4.南欧北欧編』東京:白水社、1953年、69-81。

  • 評価:☆☆☆☆★
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劇作家の高野竜さんに2年ほど前に「この戯曲、面白いよ」と勧められていたのだけれど、さっと一度黙読したきりの作品だった。
時間堂主宰の黒澤世莉さんのテヘラン取材の応援募金にカンパしたところ、ワークショップの参加の特典があった。そのワークショップの材料にちょうどよいかもしれないと思って選んだのがこの戯曲だ。黙読したときはその面白さがよくわからなかったけれど、ワークショップのなかで声を出して読むなかでこれがとても優れた戯曲であることがわかってきた。
翻訳でわずか10頁ほどの短い作品である。

登場人物は3人だけ。植字工の若い男とずっと家に閉じ込められている娘、そしてその母親。上司の使いで植字工はとあるアパートの一室を訪ねるのだけれど、間違えて隣の家を訪ねてしまった。そのとき出てきた若くて美しい娘に、この植字工は一目惚れしてしまう。全体としては明るいの雰囲気の恋愛風俗喜劇のなかで、二人の恋のかけひきが軽やかに進行し、心浮き立つようなハッピーエンドで締め括られる。しかしこの戯曲は優れた寓意劇でもある。登場する三人の人物はアレゴリーであり、この三人のあいだの関係性もアレゴリックな意味合いのなかで解釈ができるようになっている。甘さと苦さ、軽やかさと重苦しさの二層の対立する意味が表裏一体となって、台詞に込められている。

キンテーロ兄弟の名前は日本ではほとんど知られてないと思う。19世紀末から20世紀はじめにかけて活躍したスペインの劇作家で、兄弟で約50年間に200以上の作品を書いた。彼らの作品はすべてスペインの南部のアンダルシア地方、とりわけセビリアの風俗を生き生きと描いたものであり、闘牛士、ジプシー、ブルジョワなどの人物が登場する。