閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

近童弐吉プロデュース『四月の魚 Poisson d'avril』

  • 出演:近童弐吉、三咲順子、上田ゆう子、杉本茜、木村裕二、笹井慶子、中村尚輝
  • 作:原田佳夏
  • 会場:阿佐ヶ谷ヴィオロン
  • 上演時間:45分
  • 評価:☆☆☆★

昨年春に古典戯曲を読む会に一回、参加して頂いた脚本家、原田佳夏さんから三月のはじめに突然メッセージを貰い、何かと思うと四月に行う公演に関係する高橋幸宏『四月の魚』Poisson d'avrilの歌詞のフランス語の部分を訳して欲しいということだった。

フランス語の歌詞を書いたのは、フランス人の役者でシンガー・ソングライターでもあるピエール・バルー Pierre Barouh らしい。 

大林宣彦監督の1986年公開の同名の映画の主題歌とのこと。私はこの映画もこの曲も知らなかった。 

 

依頼のメッセージの文面が丁寧なものだったし、あと一読してこのフランス語の歌詞が気に入ったので訳してみた。原詩もいいけれど、自分の訳文も実はとても気に入っている。原文のフランス語は平易だけれど、音節数をそろえ、脚韻を踏んでいて、しっかりとした詩の形式で書かれたテキストだった。 

著作権の問題で当日パンフレットに訳文を掲載できないのはちょっと残念。この日記の最後に掲載しておく。 

 

『四月の魚』はフランス語で言うエイプリル・フールである。紙で作った魚を人の背中に貼り付けるという習慣があるらしい。なぜ4/1のおふざけを「四月の魚」と呼ぶのかには諸説があってよくわかっていないようだ。 

 

原田さんの作品は高橋幸宏の《四月の魚》からイメージを膨らませてできた作品だと言う。上演場所は阿佐ヶ谷にある名曲喫茶ヴィオロン。調度も古びていて味わいのある喫茶店だった。ものがたくさんあって狭い店内にお客さんが15名ほど。出演者は7名、上演時間は45分の芝居だった。ヴィオロンの綴りはviolonで、バイオリンのフランス語読みだ。芝居のタイトルの『四月の魚』もフランス語由来で、フランスのエピソードもからむ 

 

中年後期といった感じの年齢のバーのマスターを中心に話が展開する。このマスターは前の晩に、男にふられて酔っ払った状態でやってきた常連客の編集者の女と千葉の海まで行ってきて、夜の海に咆哮したあと、緑亀を逃がしたという。このマスターを巡る女性関係が何かだらしなくて、緩やかに錯綜している。 

 

離婚したマスターの前妻は、店の常連客の男と再婚して、その男はパリへの新婚旅行から帰ってきてこの店にやって来た。酔っ払いの編集者の女をふった男は、今度はマスターの恋人(既婚者だったかな?)とくっつき、自分が振った女がそこにいるともしらず、のこのこと新しい恋人を連れて店にやってくる。さらに店にはマスターが1600年前に振り切って逃げたという竜宮城の乙姫も亀をともないやって来た。この乙姫はもうかなりの年増で、マスターの前妻にそっくりだという。 

 

男女関係は混乱しているのだが、登場人物のことばのやりとりは、どこか修辞的、詩的、遊戯的で、深刻な対立を生じさせることなく、上滑りしていく。つかみどころのないふわふわとした感じのまま、恋の葛藤は軽やかな喜劇調のなかで展開する。太宰治の『御伽草子』のなかの「浦島」の一節が通奏低音となっていた。はかなくて、明るい諦念が漂っているような、洒脱な雰囲気の芝居だった。確かに高橋幸宏の楽曲の力の抜けた感じにつながっている。名曲喫茶ヴィオロンのレトロで薄暗い内装が借景として巧みに利用されていた。ヴィオロンは住宅地のなかの異世界という雰囲気で唐突にあり、現実とファンタジーの出入り口にふさわしい。 


Yukihiro takahashi - Poisson D'avril - YouTube

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Poisson d'avril (高橋幸宏) 

 

 

[フランス語歌詞の訳] 

 

島から吹く風に乗って 

僕たちのもとに香りが届く 

そんな香りがいったいどうしたんだ、 

って思うこともあるけれど 

魚をときどきグリルで焼いていると 

春がとっても好きなる 

だって春には 

「四月の魚」があるからね 

 

風の学校では、若くて小さい貝が 

笑っている 

そんなイメージが 

僕には思い浮ぶ 

「四月の魚」が生まれるよ 

あの幻を君は知っていただろう? 

あれは幻の大河と大洋 

君は夢のなかを泳いでいるんだ 

 

僕は月に住んでいた 

そのときの記憶の波が 

時々押し寄せてくる 

月の砂丘でぼんやりと 

見張りをしていたときのことを思い出す 

町からは遠く離れた場所に僕はいた 

「四月の魚」の銀色の鱗が 

きらりと光るのを見たときに 

 

Ils sont portés par les vent 

Qui nous viennent des îles 

Tous ces parfums que souvent 

Nous trouvons inutiles 

Si je mets de temps en temps 

Un poisson sur le gril 

J’aime surtout le printemps 

Pour son poisson d’Avril 

 

C’est de l’école du vent 

Que je garde l’image 

D’un sourire adolescent 

D’un petit coquillage 

Poisson d’Avril en naissant 

Savais-tu ce mirage 

Ton fleuve et ton océan 

C’est le rêve où tu nages 

 

C’est une vague d’un temps 

Où j’habitais la lune 

Qui revient de temps en temps 

Et m’évoque les dunes 

D’ou je guettais nez au vent 

J’était si loin de villes 

Le petit reflet d’argent 

De mon poisson d’Avril