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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

平原演劇祭2013 第一部 「茶室から宇宙へ」

演劇

平原演劇祭2013 第1部 

宮澤賢治「みぢかい木ペン」 (評価:☆☆☆☆)

別役実「虫たちの日」 (評価:☆☆☆☆★)

 

2013/4/7(日)13時15分-14時45分 

場所:宮代町進修館「茶室」 

出演:「虫たちの日」 高野歴;「虫たちの日」 泉田奈津美、斉藤ヒナコ 

宮代NOW(出来事編)による写真入りレポート あり

http://blog.goo.ne.jp/miyashiro_now/e/0d4ab3770ac6e549476534aabf7ad16e 

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埼玉県東部、宮代町居住の高野竜氏による平原演劇祭2013年第1弾。今年はこの後、5月に第2弾、6月に第3弾、そして8月に第4弾が予定されているとのこと。 

 

4月に中1になり、このところぐずぐず文句タレとなった娘を連れて見に行った。 

高野氏の公演では通常の劇場は使用されない。今回は宮代町の公共多目的施設である新修館にある約8畳の茶室が公演の場となった。 

茶室の窓や障子は取り払われ、周囲の庭園から風が吹き抜ける開放的な空間になっていた。この茶室の壁際二方と縁側が客席となった。観客は15名ほど。演技場は観客のすぐ目の前である。 

最初の演目は、私の娘と同じ歳、今週から中学生となる高野歴君による宮沢賢治「みじかい木ペン」の朗読だった。歴君は縁側と茶室を区切る仕切り壁のなかの物入れからいきなり飛び出して、窓のさんを踏み台に、源義経の八艘飛びよろしく、壁際の観客の頭を越えて演技場に飛び降りた。この開演まで40分ぐらい、狭くて暗い物入れのなかに潜んでいたそうだ。紺色の道場着を着ていた。変声期をまだ迎えていない少年の透き通った声での朗読が茶室のなかに響き渡った。会話の部分で軽く表情を付けるが、その工夫はほどよく抑制されている。硬質で緊張感のあるボーイソプラノが心地よかった。目を閉じて声だけを聞いて朗読の場面を思い浮かべたり、凛々しい少年の表情を見ながら朗読を聞いたり。 

 

宮沢賢治の朗読のあとには休憩が入って、軽食の時間となった。高野さんの公演ではこうした会食の時間がよく挟み込まれる。今回のメニューは生桜エビ、イカ刺し、それから佐渡島産の生の黒もずく(アカモク(ナガモ)というらしい)。これをわさび醤油で頂く。見知らぬ者通しが茶室で紙皿に盛られた生の海産物に手を出すのには若干の抵抗感もあったけれど、ちょっとつまんでみると実においしい。出されたものは10分ほどで皆なくなってしまった。この饗応は次の演目の内容につながっていく。 

 

休憩のあとは若い女優二人による別役実の二人芝居『虫たちの日』の上演がはじまった。老夫婦の食卓での会話劇。古びた水屋のそばで、丸テーブルを挟んで、老夫婦がご飯を食べながらとりとめもない会話を延々と続ける。別役実的な人工的設定の不条理劇ではなく、むしろ岸田國士の夫婦対話劇の別役によるオマージュといった雰囲気の芝居だった。古ぼけた茶室の空間と調度が借景としておおいに貢献している。開放的な茶室を通り抜ける風の音、茶室の建物での様々な物音、そして晴れから一転、劇の進行に合わせるように雨に変わっていった天候といった偶然が、劇的な調和を作り出していた。軽くてかすかな、しかし決定的なものである夫婦の会話のズレが、リアリズムのなかで、徐々に重なり、拡大し、不条理で不可解なものへの入口となっていく描写も見事だった。中間部で入る一分間ほどの時間停止の効果、そして最後の場面で、それまで向き合って話していた老夫婦が、二人揃って正面上側を向いて、語り会う転換の仕掛け。 

私がこれまでに見た別役実作品のなかでは最も面白いものであったし、作品の完成度を必ずしも重視しない高野氏の上演ではあるけれど、今回の公演の完成度は、借景芝居の偶然も見方して、極めて高いように思った。 

 

公演終了後、高野氏宅に寄って2時間ほど歓談。

話ながら、高野さんはいったいどんな観客のために作品を作り、上演しているのだろうか、という疑問がわく。面白いと思った私のような人間が見に行くわけだけれど。でも高野さんは実際にやって来る具体的な観客の姿を思い浮かべて、作品を作っているわけではないような気がしてきた。彼が想定する観客はもっと漠然とした、抽象的な存在であり、それはもしかすると共同体の意識のようなものやあるいは神のような超人間的な存在なのかなと。