読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

【報告】「記憶」と「再生」、そしてストーリーテリングのためのワークショップ

演劇

 

2013年5月1日(水)14時〜18時40分

会場:アトリエ春風舎

http://www.romt.org/jp/view.asp?ID=50

【講師】田野邦彦(RoMT主宰、演出家、ワークショップデザイナー)

 アトリエ春風舎では5/6まで、現在上演時間3時間20分の一人芝居『ここからは山がみえる』が上演されている。小劇場レビューサイト《ワンダーランド》には、演出の田野邦彦さんと俳優の太田宏さんへのインタビュー記事が掲載されている。

一人芝居とワークショップによって作り出される《共有体験》:RoMT第4回公演「ここからは山がみえる」再演を前に

 

この作品の休演日である5/1に、演出家の田野邦彦氏のワークショップ企画が行われた。ウェブページ上のワークショップの紹介には以下のようにある。

「『ここからは山がみえる』のもつ<記憶を再生する>という構造を使って、実際に参加者のみなさんひとりひとりが「ストーリーテリング」を体験し、演劇が「記憶」に及ぼす影響、人が人に語ること/人が人と語り合うことの意味、演劇のもたらす共有体験とはどんなものなのかを考えてみたいと思います。」

 

昨年、私は田野さんが講師をつとめる池袋コミュニティカレッジでの半年間のワークショッププログラム「青年団の演劇入門」に参加し、彼のワークショップのコンセプト、方法論から多くのことを学び、演劇についての新しい視点を獲得することができた。

 

今回は公演中の一人芝居と連関した内容のワークショップで、テーマが「記憶」と「語り」、そして「共有」ということで大いに好奇心をそそられた。参加者は8名、時間は4時間を超える濃密な演劇を体験することのできたワークショップだった。以下、備忘のためその内容を記録しておく。

 

【「ここからは山がみえる」の感想】

 今回参加した8名は全員、『ここからは山がみえる』の今回の公演を見ていた。まず参加者が作品の感想を述べる。私の感想はまた別に劇評のかたちで発表したいと思う。8名のうち、女性は2名だった。「ここからは山がみえる」の語り手である早熟な少年、アダムに共感できたのは男性1名のみ。作品に対しては絶賛の声よりもむしろどうとらえていいのかわからないという戸惑いを表明する意見のほうが多かったように思う。田野氏からはオリジナルの戯曲にはト書きが一切ないこと、田野氏自身はイギリスでこの作品の上演を見ていないこと、アダムが関わる厖大な固有名詞を観客の記憶のなかで連鎖させるために行った演出上の工夫などについての話を聞いた。

 

【『ここからは山がみえる』戯曲の文体の分析。演出の可能性】

 次に『ここからは山がみえる』の抜粋を各自が声を出して読んだうえで、演出を考えるというもの。一人語り演劇ではる『ここからは山がみえる』には、アダムによる語りの地の文と対話体の部分に分かれる。対話体もアダムの言葉なのだが。語りの地の文の視点も不安定だ。アダムがそれをいつ語っているのかがよくわからない。語られているイベントと同時、アダムの意識の流れをそのままなぞっているように思える部分もあれば、若い頃を回想しているように思える部分もある。語る相手が誰なのかも不明確だ。時に観客への語りかけが唐突に入ったりもする。

 地の文から対話体への流れは、フランス語の小説で使われる自由間接話法を連想させるところもある。文と文のつながりも時に乱暴に分断される。複雑な語りの文体の混交を丁寧に読み解いて、テキストにある断絶をいかに処理するかが演出のポイントとなることがわかる。各人からそれぞれのアイディアと解釈が出たあと、田野氏が自分が実際の上演で行った演出方法を提示する。演出には「あえて解釈を提示しない」というやり方もある。ただ単に間や視線の置き方を指示するだけ。人物の内面を言葉によって指示してしまうことで、表現や解釈の可能性を殺してしまうことがあるからだ。

この『ここからは山がみえる』は徹底して言葉の演劇であることも分析から明らかになる。言葉によって提示されて初めて、事物が現れる。しかしその事物と世界は言葉によって名指しされた刹那にまた消え去ってしまうそういう演劇世界。言葉のひとつひとつが観客の想像力に作用するキューとなっている。

 

【聞き手の関心を呼び起こす話題とはどんなものか?】

 一五分ほどの休憩のあと、実習形式のワークショップがはじまった。話を語る側とそれを受けとる側の関係性について確認する。語る側は情報を伝えるにあたって、受け取る側の期待の地平を意識して話題を提供していく。まず相手の好奇心を刺激する話題とはどのようなものかを確認するためのワークを行った。

 各人が一言ずつ自由に述べる。しかし話の最後に必ず「……らしいよ」と伝聞の語尾をつける。「兄貴にこどもができたらしいよ」「明日は晴れらしいよ」「大江戸線がとまったらしいよ」「本当は無料らしいよ」「あそこに行くと帰れないらしいよ」。受取手の好奇心を刺激する情報とはどのようなものであるか意識して、何かを述べる。

 

【話題の連鎖のさせ方。聞き手の関心を持続させるための配慮】

 次に二人組を作る。片方が話し手、片方が聞き手となる。「自分にとってコンビニとは」という題で話し手が話し始める。聞き手は相手が話すなかで、自分が気になる言葉や表現が出てくると、そこで相手の話をさえぎり、「え、○○って何ですか?」とその度に質問する。語り手は今度はそこから質問された語、表現について話さなくてはならなくなる。語り手が話題の展開に難儀しているようなら、今度は聞き手は「それはおいといて」と合いの手をいれる。話し手は最初のコンビニの話題にもどって話を続ける。これを三分間のあいだ、繰り返し行う。ポイントは相手が話しやすい話題を聞き手が提供すること。話し手のほうは聞き手がひっかかりやすい語や表現を話のなかに取り入れること。

 

【共通のテーマから、各人が自分の物語を作っていく。物語の共有】

 最後のタスクでは参加者がそれぞれ『ここからは山がみえる』のスタイルの口語体独白ドラマを作るというもの。まず二人組を作る。「学校」という題が挙げられる。「学校」と聞いて連想できる人、モノ、事を、二人で挙げ合ってリストを作る。二人で作ったリストから三つの語を選んで、その三語を使って一人語りの物語をそれぞれが作るというもの。一〇分間の時間で作り上げる。まず試作品を二人組でそれぞれ話す。一人語りはスポットライトのあたる舞台で行う。どのように語るのが効果的なのか、互いの作品の演出についても二人で検討する。特に導入部をどうするか、どのような導入を行えば語りの内容にスムーズに移行でき、聴衆を語りのなかに引き込むことができるのか、その仕掛けを考えるよう指示が出る。

 最後に一人一人が自分の語りものを披露。一人が終わる度に、全員が一言ずつ感想を述べる。私は「リコーダー」、「女の子」、「校内暴力」の三つの語から、中学時代のことを語った。われながらなかなかうまく構成できたように思う。

「学校」に関わる人とオブジェの連想から、8つの異なる一人語りが生まれた。