閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

シュナイダー

マキタ企画

  • 脚本・演出:マキタカズオミ
  • 舞台美術:濱崎賢二(青年団)
  • 舞台監督:西山みのり
  • 照明:井坂 浩(青年団)
  • 音響:星野大輔
  • 制作:堤 佳奈(青年団)
  • 出演:海津忠(青年団)、森岡望(青年団)、石松太一(青年団)、伊藤毅(青年団/643ノゲッツー)、齋藤晴香(青年団)、江原大介(elePHANTMoon)
  • 劇場:小竹向原 アトリエ春風舎
  • 評価:☆☆☆★

作・演出のマキタカズオミは、elePHANTMoonの主宰者だが、本公演は青年団若手自主企画マキタ企画としての上演。出演する役者は青年団所属の役者が中心だ。 

elePHANTMoonの公演は一度だけ見たことがある。2011年3月11日の震災の10日後、新宿のシアターサンモールで見た『劣る人』だ。場末のスナックに集う恵まれない人々の鬱屈を描くリアリズム劇だった。この芝居には瀬戸山美咲が女優として出演していて、スナックのママを演じた彼女がとてもきれいだった。 

 

『シュナイダー』はチラシの絵が作品の雰囲気をよく表している。『劣る人』以上に深刻な鬱屈抱えた人たちが登場する見ていて息苦しくなるような作品。写実劇による露悪的ホラーだった。自殺の名所、おそらく富士の青木ヶ原樹海のそばにある個人経営の小さなカフェが舞台になっている。 

カフェは30ぐらいの美しい女性が切り盛りしている。彼女は足が悪く、片足をひきずりながら移動する。この女性を演じた青年団の女優、森岡望がとてもよかった。美しい顔立ちに屈折した陰、そして大きな胸も素晴らしい。この女性の夫はある日、突然失踪した。夫には愛人がいた。夫の友人がこのカフェでアルバイトとして働いている。小柄で寡黙な男性、彼も何か鬱屈を抱えている。 

 

脚本の作りはとてもうまい。登場人物の台詞のやりとりは時に饒舌すぎて、上滑りしている感じがある。言葉に繰られて、知らず知らずのうちに演技してしまっているような、そういうリアリティと虚構がある。台詞の連鎖がなめらかに物語を推進させていて、退屈を感じない。 

 

舞台上では最初から最後まで不穏な嫌な空気が流れている。左側の壁からは、ぽたぽたとしずくが垂れる音がかすかに聞こえる。このしずくの効果音は、じとっとした嫌な雰囲気を増幅させていた。 

 

作・演出者は確信犯で、グロテスクな様相を浮かび上がらせる。悪趣味を娯楽的に提示するのだけれど、劇の終了後の後味の悪さは相当なものだ。 

心臓が止まりそうになるようなびっくり場面がある。観客のほとんどがぎょっとして身をすくめたのではないだろうか。あの演出も相当酷い。破壊力抜群の仕掛けで、物語も一気に転換する。してやったりと演出家の邪悪な笑い顔を想像してしまう。 

 

面白い、よくできた芝居だけれど、気持ちが悪い。観劇後、コーヒーのサービスあり。しかしあの芝居を観たあとでコーヒーを提供すること自体が、悪趣味な冗談に思える。私は飲む気がしなかった。げろげろ。