閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

「元禄忠臣蔵:御浜御殿綱豊卿」「一本刀土俵入」

前進座五月 国立劇場公演

「元禄忠臣蔵:御浜御殿綱豊卿」

  • 徳川綱豊:嵐圭史
  • 富森助右衛門:嵐芳三郎
  • お喜世:河原崎 國太郎
  • 江島:山崎辰三郎
  • 浦 尾:藤川矢之輔
  • 作:真山青果
  • 演出:十島英明
  • 美術:鳥居清忠
  • 照明:寺田義雄
  • 音楽:杵屋佐之忠
  • 舞台監督 中橋 耕史

「一本刀土俵入」

  • 駒形茂兵衛:藤川矢之輔
  • お蔦:河原崎 國太郎
  • 作:長谷川伸
  • 演出:平田兼三
  • 装置:熊野隆二
  • 照明:塚原清
  • 効果:田村悳

劇場:三宅坂 国立劇場

 真山青果『元禄忠臣蔵』「御浜御殿綱豊卿」と長谷川伸『一本刀土俵入』の二本立て。近代歌舞伎の時代物と世話物の組合せ。上演時間は休憩を入れて4時間強。 

座頭の中村梅之助が昨日、楽屋口で転倒し、怪我のため出演できなくなった。梅之助はもう83歳の高齢。第二世代の梅之助前進座の支柱だ。回復してまた舞台に復帰して欲しい。 真山青果の作品はよく上演されるけれど、正直面白いと思って見たことは一度もない。『元禄忠臣蔵』も2度くらい通しで見ているように思う。「忠臣蔵」で提示される世界自体が私には馴染めなくて、四十七士にも共感できるところがないのだけれど、真山青果の『元禄忠臣蔵』はその上、歌舞伎っぽいケレンが乏しく、生真面目で地味で退屈で。 

前進座の「御浜御殿綱豊卿」もまったく期待していなかったのだけれど、思いの外、楽しんで見ることができた。喜劇的な部分とシリアスの部分の対比がしっかりとなされていて展開にリズムがあった。とりわけ《中の巻》の嵐圭史が演じる徳川綱豊と嵐芳三郎の富森助右衛門のあいだの緊張感溢れる言葉の応酬、格闘技めいた駆け引きの緩急は丁寧に演出されていて、思わずこちらも背筋を伸ばして舞台を注視してしまうような迫力があった。 

 

二本目の『一本刀土俵入』は藤川矢之輔が演じる駒形茂兵衛が愛嬌があっていい。序幕と大詰での人物造形、展開の対比が面白い。序幕で河原崎國太郎が演じるお蔦が、茂兵衛に情けを投げかける場面、國太郎のしれっとした湿り気のない言い方が効果的だと思った。見ていて心なごむ後味のよい芝居だった。 

 

松竹歌舞伎にはスター役者ひとりにスポットライトを集中させる華やかさがあるが、全体のアンサンブルのよさでドラマの面白さを発見させてくれる前進座の演出、脚本が私は好きだ。