閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ピノキオ

人形劇団むすび座

  • 原作:Carlo Collodi
  • 脚本:麻創けい子
  • 演出:大野正雄
  • 美術:福永朝子
  • 音楽:小塚憲二
  • 衣装:幅上ちさと
  • 照明:若狭慶太(藤井照明)
  • 音響:犬塚裕道(ステージヴァンガード)
  • 制作:吉田明
  • 出演:土屋可奈、松本英司、小林嵩幸、太田博己、宮武史郎、藤中智光、長谷川真代、江藤正剛、木下いくみ
  • 劇場:練馬文化センター 小ホール
  • 上演時間:90分(休憩10分)
  • 評価:☆☆☆☆★
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むすび座『ピノキオ』素晴らしい舞台だった。遊び心に満ちた多彩で奇抜な趣向で楽しませるだけでなく、この物語が内包していた豊かな可能性が引き出されている。操演の繊細さにも魅力された。

人形劇団むすび座の公演のクオリティの高さについては、前前から耳にしたり、目にしたりしていたのだが、この劇団の本拠地は名古屋で東京ではあまり公演がない。東京で公演がある場合も、親子観劇組織である子ども劇場を対象とした公演が主なので、公演情報を見逃していたりして、これまで見る機会を逸していた。 

 

練馬文化センターの小ホールでの公演だった。小ホールでも客席数は六〇〇席ほどある。今回の公演は3つの子ども劇場の共催となっている。開場時の混雑ぶりが相当なものだったので超満員なのかと思えば、2/3ぐらいの入りだった。400名ぐらいか。ほとんどは親子連れなので二人組もしくは三人組の客となる。3つの子ども劇場だと一つあたり五〇組ぐらいの入場ということになる。 

 

上演時間は休憩10分を挟んで90分ほどだった。140センチぐらいの大きさのかなり大きな人形での公演で、ジェペットじいさんとピノキオはときに三人の演者による出遣いとなる。オープニングは、出演者全員による賑やかなミュージカル風の場面。一旦、出演者が退場したあと、三人遣いのジェペットじいさんが入場するのだが、その動きの繊細さ、なめらからにいきなり魅了されてしまう。岩を削り取ったようなジェペットじいさんの人形造形もいい。 

ストーリー展開は、周知のもの。私が知っているのはディズニー・アニメのものだけれど、大きな改変はない。しかし取り入れられている趣向は実に多彩でユニークだ。怖い場面もいくつかある。思わず笑ってしまうくらい不気味で怖い。本気で怯えている小さい子の直球の反応が可愛くて可笑しい。大小様々な大きさの人形を使ったり、舞台だけでなく 

客席全体を利用した演出があったり。遊び心に満ちた奇抜な趣向の数々で観客を楽しませるだけでなく、丁寧な演出によって『ピノキオ』の物語が内包している豊かな可能性が引き出されている。ジュゼッペじいさんが抱えていた孤独の深さに気付いて泣いた。「人間」に過剰に憧れを持つピノキオを見ながら、人間ってそんなに素晴らしいものじゃないかもしれないよ、と心のなかで語りかけた。 

丁寧で繊細な人形の操演は、見ていて本当に美しい。演者の人形と作品に対する慈しみの情が、その動きから読み取ることができるような気がした。 

 

ユーモア、寓意、教訓、そして抒情に満たされた素晴らしい舞台だった。