閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

練馬区立石神井東中学校演劇部『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』

練馬区石神井東中学校の演劇部公演を見にいった。校内自主公演で上演場所は学校の体育館。演目は畑澤聖悟作『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』。昨年の高校演劇コンクールで、畑澤が指導する青森中央高校がこの作品で最優秀を受賞した。石神井東中演劇顧問の先生は昨年夏にこの作品を見て、自分の中学の演劇部でもやってみようと思ったそうだ。 

 

青森のとある高校。新学期にやる気に満ちた熱血女子マネージャーが入って来たものの、この高校の野球部は弱小で、部員のやる気も薄い。しかも8人しか部員がいない。福島からやってきた転校生を野球部に入部させ、女子マネージャーは甲子園を目指すべく、部員たちにハッパをかける。甲子園を目指すのであればコーチが必要だ。もう1人の女子マネージャーが探してきたコーチは、恐山のイタコをやっているおばあさんだった。イタコの婆さんは、福島からの転校生に修業をつませ、伝説的な速球投手、太平洋戦争で戦死した沢村栄治投手の霊を呼び寄せた。沢村栄治が乗り移ったエースの活躍で、弱小野球部は連戦連勝。ついに県大会の決勝までコマを進める。しかしこの決勝戦で沢村が乗り移った福島の高校生の肉体は限界を迎えてしまった。乗り移った沢村が成仏してしまっため、結局、決勝戦で敗れ、この高校は甲子園出場できなかった。大会終了後、一ヶ月後。久々にグランドに野球部員が集まる。一ヶ月ぶりに野球部の仲間に会った福島からやってきた転校生部員がそこで目にしたものは。。。 

 

イタコがコーチで往年の名選手が乗り移るという荒唐無稽な物語。この作品はどこでも上演できるよう一切の舞台美術が用いられていない。背景やBGMはすべて役者たちの身体と声によってユーモラスに表現される。応援のブラスバンドや壁掛け時計なども複数の俳優で表現してしまうのだ。各人物の造形は演劇的に強調されたカリカチュアとなっていて、それも笑いを呼びよこす。そして最後の最後で一気に泣かせが入る。一時間弱の芝居だけれど非常によくできていて、だれるところがない。 

 

青森の高校生のために作られた作品を、練馬の中学生が演じるということで、設定的にちょっと強引なところはあったけれど、作品の面白さと展開の力強さがそうした違和感を相殺している。ほぼ出ずっぱりとなる主人公の女子マネージャー役の子がとても可愛らしい子だった。石神井東中の演劇部員は30名いる。ここ数年、都大会や関東大会に出場したりしていて演劇部はとても人気があるのだ。校区の小学校での公演も行っていて、それを見て感動した子供が入部してくることもあるという。今年の一年生の部員は15名だった。学校のなかでも花形の部となっている。今日の公演では、演劇部保護者のほか、学生など100名ぐらいの観客がいた。 

 

石神井東中の『もしイタ』は今回の校内自主公演が昨年から数えて7回目の上演で、これでもって『もしイタ』の上演は行わないとのこと。秋からは新しい作品の稽古に入る。中学演劇で同じ作品を7回上演機会があるというのはかなり例外的だ。都大会、関東大会というコンクールのほか、校内公演、近隣の小学校での公演を行っているので、この公演回数となった。 

 

子供の学校芝居といえば、小学校の学芸会ぐらいしか見たことがない人がこの公演を見たら驚くに違いない。クオリティがとても高いのだ。俳優の技術はみな普通の中学生なので大したことはないのだけれど、学校の部活だとほぼ毎日、稽古を行っているので、しっかりとした指導者がいれば、大学演劇やそこいらの小劇場演劇よりはるかにクオリティの高い舞台になるのは当然なのだ。文化祭での公演では体育館が超満員になるというもよくわかる。 

 

7回目、最後の『もしイタ』公演を終えた直後、主演の女の子は他の出演者や見に来た友達に囲まれたなかで、感無量という感じ。一所懸命さがストレートに伝わってくるのがいい。