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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

アカディアンの過去と現在:知られざるフランス語系カナダ人

アカディアンの過去と現在―知られざるフランス語系カナダ人

アカディアンの過去と現在―知られざるフランス語系カナダ人

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ジョージ・クレイグ George Henry Craig「アカディア人の強制移住」(1893)
1755年のアカディア人の強制移住を描いた絵画。

 

カナダのフランス語圏といえばケベック州が知られているが、そのケベック州よりさらに東部にあるニュー・ブランズウィック州やノヴァ・スコシア州、ニューファンドランド州、プリンス・エドワード州にも少数ながらフランス語系の住民はいる。これらのカナダ東端の地域のフランス語系住民の多くは、かつてアカディアと呼ばれた地域(現在のノヴァ・スコシア州)のフランス系移民の子孫だ。アカディアに住んでいたフランス系住民は1755年に英国から強制移住を命令され、ちりじりになった。この強制移住命令から8年後の1763年のパリ条約により、一部のアカディア人は故郷に戻ってきたが、分散して居住し、英国王室への忠誠を誓うことを義務付けられた。その後、21世紀の現在まで旧アカディア出身のフランス語系住民は、カトリックの教えをよりどころにひっそりと存在し続けている。ケベックのようにフランス系住民としてのアイデンティティを強調することもなく、フランス本国の大半の人々からもその存在を忘れられたまま。

 

本書は18世紀啓蒙主義思想の研究者によるアカディアンの歴史、文化、言語についての優れた学術的エッセイである。ヴォルテールなどの啓蒙主義者が記した北米植民地についての記述をきっかけに筆者はカナダのフランス語圏に関心を持つようになり、1980年代後半からこの地域にたびたび滞在した。この著作では第一部ではアカディアンの歴史と文化の概観になっている。そのなかには著者の紀行取材文、アカディア出身のゴングール賞作家、アントニーヌ・マイエの紹介なども含まれる。

アントニーヌ・マイエの代表作『荷車のペラジー』は大矢タカヤスによる翻訳が出版されている。

荷車のペラジー: 失われた故郷への旅 (カナダの文学)

荷車のペラジー: 失われた故郷への旅 (カナダの文学)

マイエの一人が足り芝居『ラ・サグインヌ』(1971)は、『荷車のペラジー』を訳した大矢タカヤスによる紹介と部分訳がある。(「アカディアの歴史と文学(2)」『東京学芸大学紀要 第二部門 人文科学』第53集、2002年、93-98ページ)。

 

第二部はニューファンドランド島の南にある小さな島、サン=ピエール・エ・ミクロン島への著者の紀行文とアメリカのルイジアナのフランス語系住民の紹介文からなる。サン=ピエール・エ・ミクロン島はタラの漁場として知られ、フランスの海外特別自治体である。パトリス・ルコントはこの島を舞台にした『サン=ピエールの生命』(1999)という映画を撮っている。ここではカナダのフランス語ではなく、「フランスのフランス語」が話されていて、アメリカやカナダからフランス語研修に訪れる人が多いという。

辺境の忘れられたフランス語地域・住民への関心をかきたてる好著。