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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

平原演劇祭2013第5部《賢治デイ》

  • 日時:10/14(祝)12:00-17:30

  • 開場:埼玉県宮代町 進修館回廊(および食堂)

  • 東武動物公園駅西口徒歩直進3分、駐車場有

  • 観覧無料、子ども歓迎、食事つき

  • 出演:フルーツアンドベジーズ(音楽ライブ)、生田粋(音楽ライブ)、片山南(朗読)、暁方ミセイ&MEW(朗読&即興演奏)、林洸理(朗読)、高野歴(朗読)、鶴田美保子(朗読)、高野竜(朗読)

 埼玉県宮代町在住の演劇人、高野竜氏がプロデュースする平原演劇祭2013年第5部が宮代町の公民館、進修館で行われた。

 進修館は半円状の特徴のある建築物だ。薄紫色の建物の手前側が柱廊になっていて、芝生の広場に向かって開かれている。この開放的空間が野外舞台として用いられた。

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 「演劇祭」という名称ではあるけれど、第5部ではいわゆる演劇作品は上演されなかった。前半はフォークミュージックのライブ、後半は詩と小説の朗読、そして幕間と大詰に食事時間が入るという構成だった。参席者の食事もこの演劇祭の重要な要素である。入場料は無料、カンパのみ。音楽と言葉と食事、そして回廊を吹き抜ける風に秋を感じる、くつろいだ雰囲気の祭典だった。

 公演の雰囲気はウェブページ「宮代 NOWフォトアルバム」に掲載された写真からうかがい知ることができるだろう。「宮代NOW 今日の一枚」のページには報告文も掲載されている。またtogetterに平原演劇祭第5部に関わるツィートがまとめられている。

 

【前半:アコースティック音楽のライブ】

 進修館回廊の天井にはブドウ棚になっているところがあり、もともとはその下あたりに舞台と客席を配置する予定だったそうだが、収穫されずに熟したまま吊されていたブドウにスズメバチが群がるという事態が発生したため、会場はブドウ棚の横のブロックに変更されたとのこと。

 最初に登場したのは、群馬出身で栃木の足利在住(だったと思う)、でもライブは東京方面でやることが多いという若い女性二人のデュオ、フルーツアンドベジーズだった。平原演劇祭には初出場である。

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  プラスチックバケツのドラムと子供向きと思われる木琴等の打楽器、そしてアコースティック・ギターのデュオで、脱力・弛緩系のほんわかしたフォークミュージックを聴かせてくれる。二人ともボーカルを担当するが、歌っているときの表情もいい。あんまりニコニコしたりせず、「うーん、ちょっとお腹の調子悪いんだな〜」といった感じの表情でひょうひょうと歌う。ポップでユーモラスでキュート。ビブラートのかかっていない歌声は、木でできた素朴のフルートのように回廊のなかで美しく響いた。2セットでたっぷり一時間、彼女たちの音楽に浸っていると、心地よい温泉につかっているかのような多幸感に包まれた。演奏者の許可を貰い、東京の郊外に住む幸せな夫婦を歌う名曲ローカルソング《花小金井》の映像をyoutubeにアップロードしておいた。《花小金井》近辺の人はみな気に入ると思う。

 http://www.youtube.com/watch?v=9ieMDAWsce0&feature=youtu.be

 フルーツアンドベジーズの2セットの演奏の幕間には、生田粋の弾き語りが入った。伸びやかな彼女の歌声は、すーっと観客に届く。名曲《Eagle》の「あいしているよ〜」というリフレインが朗朗と回廊に響き渡り、ぐだぐだゆるゆるのフルーツアンドベジーズとは対比的な、ある種の崇高さが空間に漂う。歌声とともに空の高い場所へ運ばれるかのような感覚を味わった。

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 前半と後半の幕間は食事時間だ。平原演劇祭では食べ物が供されることが多い。中食のメニューは羊肉スペアリブ、レバー、ハツの香草焼、これに玉ねぎ、トマトなどの生野菜を添えたもの。ヨーグルトもあったような。時間は1時半を過ぎていたので、皆お腹が空いていて、羊肉はすぐになくなってしまった。

 

【後半:朗読の時間(宮沢賢治へのオマージュ)】

 中食のあとの後半は朗読の時間である。第5部は《賢治デイ》となっているが、宮沢賢治のテキストは半分くらいだった。後半は12歳、中一の少女である片山南による宮沢賢治「高原」の朗読から始まった。

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宮代NOWフォトアルバムより)

 「高原」はわずか5行の短い詩だ。彼女の出番は20秒ほどに過ぎない。

海だべがど おら おもたれば 

やつぱり光る山だたぢやい 

ホウ 

髪毛(かみけ) 風吹けば 

鹿(しし)踊りだぢやい 

 裸足の彼女はちょっと緊張していたようだが、大きな声で明瞭に読むことはできていた。語り出しのところでは、声がよい具合に反響し、方言の呪文的な効果もあって、これから始まる朗読の時空間を鋭利な刃物で切り開くようなイメージを作り出していた。20秒ほどの語りが終わったあとは、彼女は真っ直ぐ、観客席の中央に設けられた隙間を花道として駆け下りていった。スピードがあって、さっといなくなる感じがよかった。 

 中一の少女と入れ替わりに、詩人、暁方ミセイが登場。MEWのパーカッションの即興演奏とともに、自身の詩集『ウイルスちゃん』から数編を朗読した。このコンビはこの6月に築200年の民家で行われた平原演劇祭2013第3部にも出演していた。

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 特異な自意識の風景をアクロバチックで飛躍の多いことばの連鎖によって描き出してく暁方ミセイの詩は難解だ。MEWのパーカッションは彼女が発する言葉によりそうように音を重ねていく。詩の内容、彼女の存在、パーカッションの音が、進修館という奇妙な空間とみごとにシンクロし、静謐で神秘的な世界が現れていた。演奏しているときのMEWさんのぎょろっとした目の表情がとてもいい。言葉のなかに何かを見つけ出そうとしているようだ。朗読中のミセイさんは本当にキュートで不思議な美少女だ。

 続いて詩集『春と修羅』より「真空溶媒」を林洸理が読む。彼女の愛らしさは写真の通り。かっこうもなんとなく宮沢賢治風。「真空溶媒」の旧かなづかいを敢えてそのまま文字通りに読むことで、聞き手の注意を喚起するという仕掛けが施された朗読だった。

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 続いてはまた中一生が登場。高野歴が『注文の多い料理店』より「どんぐりと山猫」を朗読した。

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 高野歴はワイシャツと学生ズボンに下駄といういでたち。書生って感じである。朗読の冒頭では姿が見えず、あたまの上から声が聞こえる。回廊の屋根の上から朗読を始めたのだ。もちろん屋根なんかに上るのは禁止されているはずだが、後で本人に聞くと「僕はルールを守るのが好きじゃないんです」とのこと。屋根の上で読むという演出は自分で考えたようだ。屋根から降りると、回廊へ移動し、緊張する様子もなく、よく通る美しいボーイソプラノでこの名作を堂々と読み切った。

 最後は鶴田美保子と演劇祭主宰の高野竜のペアで、谷川雁の小説集『幻夢の背泳』から中国の人口爆発によるアジアの混乱を描いた近未来小説「東アジア黄藍戦争」の朗読が行われた。

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 私は恥ずかしながらこの詩人のことをまったく知らなかった。中国の人口爆発の脅威については、しばしば高野さんがmixiで書いたり、つぶやいたりしていたことを思い出した。二人は回廊と回廊前の階段(ここが観客席になっている)を移動しながら、「東アジア黄藍戦争」を読み切った。正直、言葉がまったくあたまに入って来ない。言葉のボリュームにもうろうとして声があたまのすぐ上をそのまま通過していく状態。まあでもわかんなくて、ボーっとしていてもかまわないのだ。途中暁方ミセイさんの朗読が挿入され、二人の語りは分断される演出もあった。午後3時半過ぎに、回廊での上演は終わった。

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【締め:かつおを食べる】

 平原演劇祭2013第5部の本当の大詰めは、この後、進修館の半地下にある食堂での食事だ。魚屋の高野竜さんが大きなカツオを丸一匹持ってきて、それを大きなまな板の上でさばいた。

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 魚をさばく様子は子供も大人も興味津々で見守っていた。このカツオをタタキにして、しょうが醤油他、ごまだれ、パクチー、生栗、唐辛子ナンプラーなどいろいろな薬味で賞味した。食事は出演者と観客の歓談の時間でもある。平原演劇祭はパフォーマンスと食事で、濃密な時と空間を共にすごすことで、そこに参席した者がみな「身内」へと取り込まれてしまう。パフォーマンス中、退屈して外で走り回っていた子供たちも、平原演劇祭には欠かせない。

 

 これで2013年、4月から5部にわたって開催された平原演劇祭は幕を閉じた。平原演劇祭は、劇場を上演の場として用いない。今年は茶室での上演に始まり、喫茶店、旧民家、公園の池、そして秋風の吹き抜ける回廊が公演場所だった。今年、私は5部すべてに参加することができた。私は色んな種類の演劇を見に行くけれど、気がつくと、原始・土俗的で前衛・独創的な平原演劇祭が自分のなかで最も重要な演劇的催しになっていた。こういったことをぬけぬけと書いてしまうのは気恥ずかしいのだが、子供と一緒にこんな奇妙で大らかで豊かな演劇的時間を過ごすことができるのを、私は本当に幸せに思う。

 2014年の平原演劇祭は第一部が2月に開催される予定とのこと。