閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

浙江京劇団『オイディプス王』

http://www.komaba-agora.com/line_up/2013/10/oedipus/

  BeSeTo演劇祭の枠組みでの公演。

 京劇は何年か前に、張春祥が主宰する在京の京劇団、新潮劇院の公演を見て以来、何回か見に行っている。京劇の様式美とアクロバティックでスピーディな動きの組合せは気に入っている。感覚に直接訴えかける快感がある。歌舞伎より好きかもしれない。しかし公演のタイミングが合わなかったり、値段がそれなりにするので、ここ3年ぐらいは京劇の公演を見にいっていない。 

 

 京劇を使った『オイディプス王』はかなり面白いものになるのではないか、と見る前は大いに期待していた。当日パンフによると実験京劇となっている今回の『オイディプス王』公演は、京劇史上初のギリシア悲劇作品だという。こうした西洋ものの翻案京劇というは、あまり作られていないのだろうか。 高い普遍性を持つギリシア悲劇の傑作が、京劇の様式美のなかでどのようなすがたで現れるのか楽しみにしていた。 

 

 会場は新国立劇場の中劇場。1000人近く入る劇場だ。一回だけの公演とはいえ、ずいぶん強気の会場選択に思えた。客の入りは一階で2/3ほどか。二階席には客はいなかった。来ている客のなかで、正規の入場料を払った客はどれくらいいるのだろうか? 私はこまばアゴラ劇場特別支援会員の特典を使った。平田オリザがBeSeTo演劇祭の実行委員長なのだ。客席に知り合いが多い公演だった。 

 

 さてスペクタクルであるが、ほぼ素舞台といっていシンプルな舞台装置は通常の京劇と同様だが、スモークを焚いたり、照明効果を使ったり、などの演出効果が導入されていた。音楽は録音、役者の歌声はアンプを通してのものだったが、これは仕方ない。衣装、化粧、演技などは、通常の京劇スタイルを踏襲したものだった。 脚本は登場人物が中国人名になっていて、75分の上演時間に収まるようスリムでわかりやすいものになっていたが、おおむね原作に忠実であるように思えた。 

 いきなり何度も素早く宙返りを繰り返す、ほとんど体操選手といってもいいような、京劇役者の動きにひきつけられる。動きのスピードが心地よい。アクロバチックな芸を見せない役者たちの動きも速くて、型がしっかりと決まっていて美しい。要所要所で見得を切る。独特の歌声の発声も良く通る。役者の歌謡ショーのような場もあった。 音楽は中華音楽と西洋音楽の折衷で野暮ったい。あのふにゃふにゃした音色は、私には強力な催眠効果があって、観劇中、何度か落ちた。 

 

 全編に渡ってくどいほど説明的な表現がうるさく感じた。台詞、ナレーションだけでなく、構成、音楽もくどい。様式美で魅了する舞台にもかかわらず、象徴性は乏しい。観客にすべてを丁寧に説明しようとする余白の乏しい舞台だったように私には感じられた。このため、作品の印象は平板でのっぺりしている。彩度の高い絵の具で、こまかく書き込まれた風景画のような舞台だった。