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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

椿姫ができるまで

映画『椿姫ができるまで』公式サイト

(2012)TRAVIATA ET NOUS

  • 製作国:フランス
  • 初公開年月:2013/09/28
  • 監督:フィリップ・ベジア Philippe Béziat
  • 出演:ナタリー・デセイNatalie Dessay、ジャン=フランソワ・シヴァディエ Jean-Frnçois Sivadier、ルイ・ラングレ Louis Langrée
  • 映画館:渋谷 シアター・イメージフォーラム
  • 評価:☆☆☆☆★

 2011年夏にエクサンプロヴァンス音楽祭で上演された《椿姫》の舞台裏を、ソプラノのナタリー・デセイと演出家のジャン=フランソワ・シヴァディエを中心に撮影したドキュメンタリー。

 舞台作品が生成される過程のダイナミズムを見事に描き出した素晴らしいドキュメンタリーだった。《椿姫》のストーリー展開と平行するかたちで、稽古の進行の様子がほぼ時系列に映し出される構成になっている。満員の観客に喝采を浴びる場面は最初のほうにちらっと映し出されたかもしれないが、ほぼ全篇にわたって稽古の場面しか出てこない。最後はヴィオレッタが死ぬ場面の稽古をデセイが繰り返す場面で終わる。

 演出家のシヴァディエは1963年生まれの中堅どころだ。その演出方法はきわめてオーソドックスに見える。テキストの細部までしっかり読み込んで、言葉で丹念に作品を肉付けしていく。登場人物の心理や状況を細かく分析することもあれば、演者に具体的に動きの指示を与えることもある。時には演者に演技演出を委ねる。演出の際の説得の仕方は、威圧的ではなく柔らかい。しかし彼の思い描いたイメージが再現できるようになるまで執拗に繰り返す。粘り強い言葉の指示で徐々に演者を作品に馴染ませていく。彼の言葉を介して歌手が役者へと変貌する様子が画面から見て取れる。オペラの演出もやはりことばの扱いが重要なのだ。デセイは歌手としてはもちろん、役者としてもやはり超一流だ。与えられたことばをじっくり吟味し、それを見事に具現化していく。納得がいく地点に到達するまで彼女も執拗に繰り返す。

 演出家が膨大な情報を制御し、言葉を通して、表現として実体化させていく過程がよくわかる、非常に興味深いドキュメンタリーだった。見に行ってよかった。オペラファンのみならず、舞台芸術に関心を持つものなら、得るものが非常に多い作品だと思う。