閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

大道芸ワールドカップ in 静岡 2013(11/1)

  昨年に引き続き、大道芸ワールドカップ in 静岡に行ってきた。昨年は一泊二日だったけれど、今回は二泊三日。最初の二日は、二週間ほど前にあったケベックの作家、オーク・チャング氏の講演会で知り合ったカナダのケベックからやって来た演出家、ラプリーズ氏と一緒だった。ラプリーズ氏はケベック州政府の芸術家派遣事業で7月から日本に滞在している。デカルトの『方法序説』やモンテーニュの『随想録』を人形劇でやったりするらしい。人間の俳優を使った通常の演劇の演出も行う。昨年は近松門左衛門の『心中天網島』をモントリオールで上演したそうだ。自身が人形劇をやっていることもあり、文楽に造詣が深い。知り合ったあとのメールで「静岡に大道芸のフェスティバルとSPACという劇団の芝居を見に行く予定だ」と書いたら、「ちょうど大阪に文楽を見に行こうと思ったところだ。大阪に行く前に静岡に立ち寄ってみたい」という返事が来て、一緒に行くことになった。

 11/1(金)の朝8時20分に新宿駅西口の高速バスターミナルを出発。静岡まで3時間、料金は早割で2170円。寝不足の状態だったのでバスの中ではほとんど寝ていた。ラプリーズ氏も昨夜は夜遅くまで飲んで、その後部屋の掃除をしたりして、睡眠時間は3時間ほどだったとのこと。

 静岡に到着するとまず昼食。新静岡セノバの5階レストラン・フロアにある静岡のハンバーグ・チェーン、さわやかでげんこつハンバーグを食べた。宿泊先のホテルに荷物を預け、まずはホテルの近くの青葉B4のポイントで望月ゆうさくのジャグリングを見た。ひきつづき同じ場所でto R mansionのパフォーマンスを見る。今回のto R mansionはナンセンスが徹底していて私はかなり気に入った。ストーリーはほとんどなく、馬鹿馬鹿しいコントの連鎖のなかで、狂騒的な時空間に観客を強引に巻きこんでいく。ケベック人演出家の感想は「狂ってる。悪くないね」。

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 to R mansionの後は、隣の青葉B3ポイントに移動し男女ペアのパントマイム、シルヴプレのパフォーマンスを見た。私のお気に入りの芸人であり、ラプリーズさんにも是非見て欲しいと思っていた。シルヴプレのショーを見るのは私は昨年の静岡以来、一年ぶりだった。「ビバーク!」を見たかったが、この日の演目は「ふれあい」など小品を構成した『愛と笑いのパントマイム劇場』だった。この日、夜にもシルヴプレを見たのだが、演目の構成は昼と夜とでは変えていた。

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ラプリーズさんもシルヴプレの演技はいたく気に入り、「素晴らしい!洗練されていて優雅だ!」と大絶賛していた。シルヴプレを見た後は、駿府城公園に移動した。次に彼に見せたかったのはバーバラ村田のパントマイムだ。青葉から駿府城公園への移動中にちょっと面白い出来事があった。

青葉シンボルロードを上っている途中、ラプリーズさんがすれ違う西洋人二人組、一人はおじいさん、一人は若い女性に、いきなり「ボンジュール」と声をかけた。すると向こうもフランス語で返事をして、そのあと彼とその二人が道で立ち止まって話をしはじめた。「前からの知り合いに偶然、静岡で会ったのかな?」と思ったらそうではなかった。全くの初対面、未知の人だったのだ。ラプリーズさんは静岡で西洋人が目の前にいたので、何となく「ボンジュール」と声をかけたら、向こうはフランス人で、立ち話になったとのこと。仏人男性、女性ともブルゴーニュの同じ町の出身。男性は静岡に37年前から住み、女性は10年ほどまえから静岡在住、メークアップ・アーティストだか、スタイリストだかをやっているとのこと。寅さん映画のファンが昂じて、来日したと言っていた。彼女に「SPACを知っているか」、と聞かれたので「明日、見に行くんだ」と答えたら、彼女はSPAC文芸部の横山義志さんの知り合いだった。

駿府城公園のバーバラ村田のパフォーマンスはメイン広場2。今日は金曜日で平日のため、人出はさほど多くなかったのだが、立ち話で到着が遅れ、正面最前列の場所は取ることができなかった。側面から見る。演目は昨年の静岡ではじめて見た「月と踊り子」だった。

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昨年見た時より構成が整理され、物語展開がわかりやすくなっていた。選曲もよくなったと思う。でもわかりやすさ、完成度と引き換えにイメージ喚起力、深遠な闇の部分の求心力はちょっと弱くなった感じもした。「月と踊り子」は11/3の昼にももう一度見た。3日のほうがこの日よりはるかによくなっていたように思った。でもどこを変えたのかは、私にははっきりわからなかった。物語性が明瞭過ぎるのがたぶんこの作品の欠点であるように思う。大道芸としてはやはり20分程度の枠組みで、ヴァラエティ・ショーにしたほうがうまくいく。「月と踊り子」と比べると、「バーバラビット」は年期を経て磨かれていることもあるけれど、大道芸演目として本当によくできていると思う。ただ「月と踊り子」が悪い作品というわけではない。私はこの作品の抒情性は悪くないと思っている。踊り子の孤独と絶望、月男の得体の知れない不気味さが強調されると個人的にはもっと面白いと思うのだけれど、そうなると子供から大人まで幅広い観客の関心を手っ取り早く集めなくてはならない大道芸演目としてはきついだろう。ラプリーズ氏は残念ながらあまり大きな関心を示さなかった。「マントを巧みに使って人物が入れ替わっていく工夫はとても面白い。でも子供向きの演目なのかな?」と言っていた。子供向きというには、あの物語性は小さい子供は追いかけることが難しいように思うのだけれど。バーバラ村田のファンである私としてはちょっと残念。「かたわれ」を見せたかった。

バーバラ村田を見たあとは一度ホテルに戻ってチェックインした。私も彼も、昨夜ほとんど眠っていなかったので大分疲労していた。特にラプリーズ氏は眠気で朦朧とした感じだったので、部屋に入って90分ほど休憩を取ることにした。休憩後は、ホテル近くの青葉3のポイントで、海外招聘アーティストでワールドカップ部門参加のザ・ロボット・ボーイズを見た。デンマークの男性二人組によるロボットぶりのダンス、パントマイム。15分ほどの短い演目。技術には感服するけれど、私はそれほど心を動かされなかった。ダンボール箱を使ったふくろこうじのクラウン芸を見た後、もう一度シルヴプレのショーを見た。土日の猛烈な混雑を思うと、比較的空いている金曜にもう少し見て回りたかった気もするが、寝不足疲労困憊の中年男二人なのでこんなものだろう。ラプリーズさんが静岡の名物料理みたいなものをどうせだったら食べたいと言っていたのだが、リサーチしていなくてどの店に入ったものかわからない。結局、ホテル近くのごく平凡な居酒屋で夕食をとって、この日は終わり。