閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

セブン・サイコパス

セブン・サイコパス(2012)SEVEN PSYCHOPATHS

サイコパスとは他者への共感性の乏しい反社会的な人間を指し、映画等のフィクションの世界ではとりわけ猟奇殺人などを行う犯罪者のイメージと結びつく。

『セブン・サイコパス』は、このタイトルの脚本の執筆を依頼された映画脚本家が、そのネタ探しの過程で本物のサイコパスたちが起こす騒動にぼやぼやしているうちに巻きこまれ、社会から逸脱していくというメタ・フィクション映画だ。

監督・脚本が、アイルランド系劇作家のマーティン・マクドナーということで見に行った。マクドナーの演劇作品は、粗暴でエキセントリックな人物たちが激しい言葉でののしり合うものが多いが、『セブン・サイコパス』では表現の暴力性を映画的リアリズムによってさらに過激にし、そしてタランティーノ風のドタバタを盛り込んだ娯楽性の高い作品に仕上がっていた。

とにかく酷い作品である。人が何人も惨殺される場面がある。そしてその表現のあからさまな露悪性がグロテスクなユーモアとなっている。娯楽性の高い暴力映画だが、マクドナーならでは強烈な皮肉と絶望、そしてそこを通り抜けた向こうにある「愛」が、登場人物の破格の愚かさ、変態の描き方などから浮かび上がる。マクドナーのひねくれぶり、屈折の加減がたまらない。爽快だった。こういう映画を見ると元気になる。

それにしてもイギリスの現代演劇界は人材が分厚い。

フランスの80年代を代表する作家であるコルテスの『西埠頭』を今日読んだのだけれど、その問題意識、手法には確かにしっかりとした手応えはあるけれど、サラ・ケイン以降のイギリスの作家たちと比べると、私にとってコルテスの演劇ははるか彼方の世界の演劇であり、生々しいリアリティを感じない。今のフランスに、マクドナーのように私を興奮させる劇作家はいるのだろうか?