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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

スタジオライフ『LILIES』

  • http://www.studio-life.com/stage/lilies2013/#id7
  • 作:ミシェル=マルク・ブシャール Michel-Marc Bouchard
  • 上演台本:倉田淳
  • 舞台監督:本多和男(ニケステージワークス)
  • 舞台美術:乗峯雅寛
  • 音響:竹下亮
  • 照明:阪口美和
  • 衣装:竹原典子
  • 出演:Erigone 仲原裕之、藤森陽太、宇佐見輝、青木隆敏、堀川剛史、藤波俊平、田中敏裕、原田洋二郎、浅川拓也、倉本徹、藤原啓児
  • 劇場:新宿御苑 シアターサンモール
  • 評価:☆☆☆☆★

 男優だけの劇団、スタジオライフの公演、『LILIES』を見に行った。 この公演、11/25と12/2の二回見に行っている。私としては異例なことだ。三組のキャストでの公演だが、私が見た二回はいずれもErgoneチームだった。

 『LILIES』はスタジオライフのレパートリーとなっている演目で、2002年の初演以降、何度か上演されている。作者はフランス語圏カナダ、ケベック州の劇作家、ミシェル=マルク・ブシャールだ。ケベックの作家の作品が日本で上演されることは珍しい。スタジオライフは『LILIES』以外にも、同じ作家の『孤児のミューズたち』の上演も行っている。 

 ホストっぽい風貌のハンサムな男優たちが、女装して女役も演じるスタジオライフは際物っぽい雰囲気なのだけれど、ケベックのこの作家に目をつけるというのは大したものだと思う。ブシャールはケベックの現代の劇作家の中でも注目されている作家の一人で、ケベックのみならず、フランスや英語圏の国々でも彼の戯曲は上演されている。 

『LILIES』のモンレアルでの初演は1998年。ブシャールの代表作といってもいいだろう。作者のページで、2002年のスタジオライフ版を含め、各国での上演記録がまとめられている。http://www.michelmarcbouchard.com/pieces-29.html 

 

 今回、スタジオライフの『LILIES』を見て、端正で安定感あるドラマの構築には、古典戯曲のような風格があるように感じた。 

 舞台は1952年のカナダの刑務所。その刑務所に司教が学生時代の友人から呼び出される。その友人は40年前、殺人の罪でその刑務所に収監されたのだ。彼は刑務所の若い囚人たちを指揮し、彼が40年前に投獄される原因となった事件を再現する演劇作品を作った。この司教もこの事件にはかかわりがあった。彼はかつての同級生である司教にこの作品を見せ、40年前の事件の暗闇を探ろうとする。司教にとっては40年前の自分の惨めさ、醜さを直視させられる辛い観劇となった。 

 40年前の劇中劇の上演のさらに内側で、『聖セバスチャンの殉教劇』が上演される。40年前、彼らはこの殉教劇の上演の稽古をしていた。聖セバスチャン殉教劇の最も劇的な場面が、リフレインとして劇中で何度か再現される。このリフレインが三重の劇構造のなかで効果的に鳴り響く。重なり合う三層の話のレイヤーが互いに共鳴し、力強い愛のメッセージを訴える。その愛のエピソードの中心となるのはシモンとヴィリエという美しい青年の同性愛の物語だ。 

 現代のケベックは世界でも有数の無神論者の国で、社会風俗もリベラルだが、1960年代以前のケベックは、保守的なカトリック教会が社会のモラルを支配し、教育もカトリック教会の監督のもとにあった。しかも舞台となったのは、ケベック州のなかでもモントリオールやケベックという大都市から遠く離れたロベルバールという小さな町の学校である。 

http://fr.wikipedia.org/wiki/Roberval_(Qu%C3%A9bec) 

 中央から隔絶された閉塞的な田舎町の息苦しさ、パリへの強烈な憧れも、配置された登場人物たちを通して語られる。 

 古典的装いの実に美しく、清廉な愛のドラマだった。男優だけでキャストを構成し、記号的な表現を選択することで、戯曲の魅力をしっかりと伝える密度の高い芝居を構築していた。演出は脚本に寄り添って、その魅力を素直に引き出している。音楽の選曲と使い方、役者の演技等、オーソドックスでベタベタなのだけれど、その演出は戯曲の内容に寄り添ったもので無理がない。こうした定型的な演出がむしろ効果的なときもある。そういう舞台だった。役者の技量はかなりばらつきがあるけれど、戯曲のよさはしっかり引き出されていた。同性愛にほとんど関心を持たない私にも説得力のある強い愛の物語となっていた。修辞的な美しい台詞と劇的な山場が豊かなこの芝居は、男優のみで演じるほうがその潜在的魅力を引き出すことができる。張り詰めた緊張感と甘美な叙情の絶妙の交替に心揺さぶられた。

 

 ちなみに作品タイトルとなっている『LILIES』だが、これは「ゆりの花」の複数形であり、そこから「純潔な人, 純白なもの」という意味でも用いられる。これはもちろん、劇中の若い男たちの隠喩になっているわけだが、英語題の「lily」には俗語で 「 めめしい男、ホモ」の意味でも用いられている。オリジナルの戯曲はフランス語で書かれていて、その原題は« Les Feluettes »となっている。« feluette »は、作者のミシェル=マルク・ブシャールの国、カナダのケベック州の方言で「やせこけた(人)、ひょろひょろした(人)」を意味すると『ロワイヤル仏和辞典』にあった。しかしこの意味では作品の内容とぴったり会わないし、英語題名の『Lilies』とも対応しない。ちょうど来日していたケベック人の演出家に訪ねると、« feluette »はケベック・フランス語の俗語で「同性愛者」を意味する侮蔑語だとのことだ。なので『LILIES』の意味も俗語としての「ホモ」の意味で取るのが、作者の意図するところだということになる。