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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

池袋コミュニティ・カレッジ「青年団の演劇入門」特別公演『アリシア』

  • 企画・構成:田野邦彦(青年団演出部/青年団リンク RoMT)
  • 会場:コミカレカフェ 池袋西武店
  • 上演時間:2時間
  • 評価:☆☆☆☆

 池袋コミュニティ・カレッジの「青年団の演劇入門」の公演を見にいった。カルチャー・スクールの発表会的公演だ。私はこの講座を昨年受講して、公演にも出演した。講師は青年団リンクのRoMTを主宰している田野邦彦さん。RoMTの公演は1、2年に一度のペースで、普段は全国各地をまわって演劇ワークショップのファシリテーターとして活躍している。 

 今年は12名の出演者だった。公演は一回だけで客席は40席ほどだったので、座席確保はかなり大変だ。出演者は自分の知り合いを2、3名呼ぶ人が多いだろうから、それだけで30名近くは埋まってしまう。 

 今回出演した12名のうち、昨年に引き続き受講した人が3人いた。公演終了後の打ち上げの高揚感は何とも言えぬものなので、私も機会あればまた出て見たい気はあるのだけれど、公演前の2週間は台詞覚えと稽古のプレッシャーで社会的廃人同然になってしまうし、公演後2週間ぐらいも疲労と公演後の高揚感の持続で仕事に支障が出る。 

 

 プロの俳優ではない素人の演劇だけれども、だからといってプロの芝居よりつまらないとは限らない。一度きりの公演に賭ける素人たちの熱意と集中力が思いの外、人の心をつかむことができることもあるのだ。また「青年団の演劇入門」は、毎回、講師の田野さんが脚本を書き下ろす。その脚本は講座で行うさまざまな作業の成果を利用したもので、田野さんの観察眼によって的確に各人物のキャラクターをとらえたものになっている。素人でも無理なく演じられるような人物と劇行為になっているので、演技としてもそれなりに見られるものになっている。 

 

 今年の作品は、昨年同様、池袋コミュニティ・カレッジ内のカフェを舞台とする群像劇だった。コミュニティ・カレッジのさまざまなカルチャー・スクールに通う人たちという設定も前年同様だ。しかし作品のスタイルは昨年とは大きな違いがあった。昨年は青年団、平田オリザの作品のパロディ、コピーという感じの作品だった。カフェというセミ・パブリックな場を、何組かのグループが出入りする。同時多発会話もちゃんと入れる。 

 今年は各人物がそれぞれ観客に語りかけるという手法が大胆に導入されていた。登場人物間のやりとりという通常の演劇的部分よりも、演者の観客への語りかけという部分のほうが多いくらい。劇人物コミュニケーションと観客とのコミュニケーションの割合が拮抗し、二つの部分が交互に現れる。語りかけと劇中会話の交代は、田野さんが今年再演した太田宏による一人芝居、「ここからは山がみえる」で非常に凝ったやりかたで行われていたが、今回の群像劇はもっとシンプルなかたちで二つのコミュニケーション・スタイルを共存させていて、それが非常に効果的なリズムを作り出してた。チェルフィッチュのスタイルも少し連想させることがある。 

 

 語りかけは内的モノローグの外在化ではなくて、観客とのコミュニケーションを指向したものだ。私への語りかけも仕掛けられていたらしいのだけれど、語りかけた演者が可愛らしい人だったので直視できず反応できなった。悔しい。 

 この仕掛が有効に機能していたので、2時間を超える上演時間だったにもかかわらず、退屈することはなかった。劇内で語られる事柄はグループによってこだわるが、家族、親子にまつわるテーマが浮かび上がってくる。昨年、わたしたちが演じた作品ではそのやりとりの背景に暗く、深刻なものが感じられたような気がしたが、今年は明るくやわらかい世界があるように思った。とりわけタイトルとなっている「アリシア」の由来がわかる親子のやりとりが感動的だった。 

 

 各演者の当て書きにはなっているけれど、一度きりの上演はもったいないと感じられるほど、よくできた戯曲だと思った。 こうした戯曲の新作を、毎年毎年、カルチャー・スクールの一度きりの上演のために書き下ろす田野さんの姿勢には感服する。これは彼がこの仕事を単なる「お仕事」以上のものだと考えているからこそできることだ。 「教える仕事」ということで私の仕事も似たような部分はあるのだけれど、田野さんのインストラクターとしてあり方は、私よりはるかにプロフェッショナルとしての姿勢に厳しさが感じられ、素晴らしいものだと思う。 できるだけルーチンの部分を増やして負担を軽減したい、労力を減らしてやっていきたいという具合だと、こうした仕事で参加者に満足感を与えることは難しいのかもしれない。