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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

『業』朗読演奏会

  • 演目:「六花」「狢穴の話」
  • 原作:岡部えつ
  • 出演:岡部えつ(朗読)、飯田美千香(人形師)、スガダイロー(ピアノ)、チェ・ジョチョル(チャング)
  • 上演時間:2時間
  • 会場:荻窪 ベルベットサン
  • 評価:☆☆☆☆★

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人形劇師、百鬼ゆめひなの飯田美千香さんの公演が荻窪で行われるということで、カナダ人演出家のラプリーズさんと一緒に見に行った。百鬼ゆめひなの公演は2012年3月にせんがわ劇場で見たことがある。等身大の大型人形を一人で使う。民俗的かつ幻想的な人形の造形は実に美しく、洗練された優雅な人形操演技術に魅了された。ラプリーズさんはモントリオールで人形を使った劇団を主宰しているので、和風エキゾチスムに満ちた様式美を持つ百鬼ゆめひなの独創的な人形演劇はぜひ見せてみたかった。

ただし今回は百鬼ゆめひなの公演でなく、作家岡部えつの作品朗読と朝鮮太鼓、チャングおよびピアノの演奏を組み合わせた特別なユニットでの公演だった。朗読が主の簡素な公演で、人形演劇という点では、百鬼ゆめひなの本公演ほどの満足は得られないのではないかという懸念もあったのだけれど、実際には複合的なジャンルの演者の相互反応で予想よりはるかに濃密で充実した時間を堪能することができた。正直なところ、2012年に見た百鬼ゆめひなの単独公演よりも、今回の座組での特別公演のほうが私は楽しむことができた。

 

まず岡部えつのテキストの美しさに引き込まれた。「六花」は雪女伝説をベースとしたオリジナル作品で、ただ一度の人の男との交情で恋の情念に苛まれる雪女の心理が民話的枠組みのなかで丁寧に描き出されている。雪女の人形造形の美しさも驚嘆すべきものだった。朗読される物語の絵解きのように、人形は即興的なピアノとチャングの音のなかで、精妙な舞のような動きを見せる。その細かい動きにも魅せられる。幻想的な悲恋の物語は、飯田美千香の人形のイメージにいかにもふさわしい。

休憩を挟んで「狢穴の話」。貧しく卑しい身分の家の娘が、その美貌ゆえに金持ちの商家の嫁となるが、人々の醜い嫉妬により虐め殺されてしまう。その数日後、彼女の父母が森の奥の丸木橋で首を吊って死んでいるのが発見された。幼い妹がこの家族にはいたが、彼女の姿は見あたらない。人は狢穴に幼い妹は迷い込んだと噂した。この話も民話調の格調の高い怪奇譚。美しい姉娘が村男の妄想のなかで強姦される場面のおぞましい美しさに息を呑んだ。チャングとピアノの力強い音楽も強烈な印象を残す。

語りの物語の美しさと人形、音楽のコンビネーションが、暗闇のなかに映し出した幻影のような舞台だった。私は大いに満足した。

 

さてラプリーズさんだが、人形造形の美しさと音楽演奏のレベルの高さには感心していたけれども、人形の動きの小ささが物足りなかったとのこと。私はあの繊細でストイックな動きにむしろ美しさを見出していたので、自身が人形遣いでもある彼の操演についての感想は意外だった。また物語の内容がわからないことにも大きなフラストレーションを感じたようだった。言葉がわからなくても舞台の面白さは伝わるものだと、私は言い聞かせてフランスで台詞がわからないなりにもそれなりに演劇作品を楽しんで来たつもりだったのだが、アントワーヌさんは台詞がわからないと楽しめない性質のようだ。これは今日の公演に限らず、他の公演の感想を聞いたときにもそういうことを感じた。彼は劇作家として自分の公演台本を執筆するのだけれど、聞いてみると台詞の量はかなり膨大のようだ。カナダのフランス語圏にあるモントリオールの舞台芸術はどちらかというとロベール・ルパージュのような視覚性が重視される傾向が大きいという報告を読んだことがあるけれど、おそらく彼はあらゆる劇的要素を過剰な言語によって表現してしまうフランス的な「ことばの演劇」の系譜にある演劇人なのかもしれない。