閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

大友良英年末4デイズ テニスコーツ+大友良英+村田正樹

 10月にカナダのケベック州、モントリオールの演出家、アントワーヌ・ラプリーズさんと知り合い、この二ヶ月間、彼といろいろなところに遊びに行った。ラプリーズさんは大友良英の信奉者で、今回の来日の目的の一つは大友良英と共同で作品を制作することだった。残念ながら「あまちゃん」の音楽で国民的作曲家となってしまった大友良英とスケジュールの都合を合わせることができず、ラプリーズさんの滞在中に一緒に作品を作ることは叶わなかった。ただラプリーズさんは大友良英を登場人物とする『原発君』という作品の構想を先週、学習院大学で行った講演で語っている。 

 大友良英のライブが12/26から4日連続で新宿 Pit innで行われることを私が知ったのは、この講演でラプリーズさんが言及していたからだ。ラプリーズさんにとっては不運なことに、4日連続ライブの最初の日が彼の帰国日と重なってしまった。帰国便は決められていて動かせなかったらしい。 それでラプリーズさんの代わりに、私が新宿Pit innに行って大友良英のライブを聞きに行くことにした。4日のうちの後半2日は、あまちゃんビックバンドでチケットは売り切れだったが、最初の2日はチケットが残っていたのだ。 

 ソロライブではなくテニスコーツという男女デュオのユニットとタップダンサーの村田正樹との共演だった。大友良英が前面に出たライブというよりは、テニスコーツが主で大友良英はゲスト参加しているような感じ。ライブの曲目はその場で何となく決めて、大友良英とタップダンサーが即興で伴奏とダンスを行っていた。大友はギターを主に弾いた。 

 テニスコーツはヴォーカルとピアノのさやとギターの植野隆司のアコースティック・デュオだ。知る人ぞ知る音楽ユニットのようだが、私が聞いたのは今回がはじめてである。言葉をやさしく、やわらかく、語りかけるように、音楽に乗せていく。音楽はほんわかしていて、とらえどころがない。私は先々週、やはりラプリーズさんと聞きに行ったサンヘドリンの大音響ノイズ音楽のようなものを期待していたので、拍子抜けである。その雰囲気はリラックスできて、非常に心地よいのだけれど、あまりにもぬるすぎて入っていけない。ヴォーカルのさやがとんでもない天然系で、ぼけまくっていて、舞台上ではゆるゆる漫才のようなのほほんとしたやりとりが展開されていたのだけれど、そこにも入り込めない。今日来たのは失敗だったなと最初のセットでは思っていた。 

 

 休憩後の後半のセットの途中からようやく感覚がなじんできた。素朴で美しい旋律と印象的な繰り返し句が催眠術のように作用する。また後半では村田正樹に加え、客席にいた別のタップダンサー熊谷和徳がパフォーマンスに加わり、20分ほど二人のダンスの超絶技巧に引き込まれた。猛烈なスピードの足技の激しいダンスに一気に気分を高まったものの、テニスコーツの音楽は常に最後はすーっと静かに消えていく感じで終わり、興奮はなだめられてしまう。気がつくと彼らのゆったりとした世界のなかに取り込まれていた。子守歌のようにも聞こえる音楽のあまりの優しさに力が抜けて、ぽろぽろ泣いた。大友良英が即興でつけるノイズによる伴奏もこちらの精神の緊張をぐにゃぐにゃにしてしまう。こういう「癒やし」っぽい雰囲気の音楽は、私は受け入れることに大きな抵抗感を感じるほうなのだけれど。ほっこりした雰囲気にやられた。結局は大きな満足感を得ることができた。