- 構成・演出:安田雅弘
- 原作:ヘンリック・イプセン
- 美術・照明:関口裕二(balance, inc. DESIGN)
- 照明:田中稔彦
- 選曲・音響:斎見浩平、大西香織
- 衣装:綾
- 舞台監督:本弘、石原石子
- 宣伝美術:福島治、古川洋祐
- 出演:山口笑美、大久保美智子、浦弘毅、山本芳郎、川村岳、倉品淳子
- 劇場:御茶の水 文化学院講堂
- 評価:☆☆☆★
美術と衣装が素晴らしい。文化学院講堂は平土間だ。その左右と後ろが灰色の大きな紗幕によって遮られている。五メートル四方の正方形の場が演技エリアとなるが、そこには細かい紙吹雪が積もっている。
開場は開演の15分前だった。開演時間になると下手側からヘッダ役の山口笑美が静かに現れる。彼女が演技エリアの中央に移動し、紙吹雪の小山に指してあった青い薔薇を引き抜くと、紙吹雪のなかにそれまで不動の状態で埋もれていた三人の男優が姿を現し、三方に退場していく。
イプセンの戯曲は近代リアリズム演劇の出発点であるが、そこで構築される世界は人工的に構築されており、象徴性が高い。普通にやれば3時間程度必要なこの戯曲を山の手事情社の今回の上演では90分、約半分に刈り込んでいる。原作にドラマの核となる部分を再構成することで、作品の抽象性・象徴性が強調されていた。山の手事情社の様式性の強い演劇は、イプセンとは相性が悪くないように思う。
主人公のヘッダ・ガブラー以外は、ぼろぼろにすり切れた服を身につけ、顔と体は白塗りとなっている。彼らは亡霊である。光沢のある鮮やかな色あいの青いドレスを着たヘッダだけが生きた人間であるようだ。彼女の以外の人間は、ヘッダの記憶のなかにある人物なのだろうか。しかし最終的にはヘッダは、亡霊たちによってとり殺されてしまうのである。
6人の俳優の身体表現は見事なものだった。山の手の独自様式である《四畳半》スタイルでくねくねと動き、美しい舞台絵を提示する。しかしこの《四畳半》スタイルゆえに、劇の展開は頻繁に分断され、リズムが破壊されている。この《四畳半》スタイルを効果的に生かすことのできる場合も多いのだろうが、この『ヘッダ・ガブラー』でも《四畳半》スタイルは作品の新たな魅力を引き出しているとは言い難い。むしろ緊密な台詞劇であった原作の展開の面白みを破壊し、作品を無意味にわかりにくくしているように私には感じられた。《四畳半》スタイルこそ山の手事情社の特徴なのであるが、劇団にとっては表現の枷になっている部分もあるように私には感じられた。表現の型としては独創的で面白いし、俳優の優れた身体的能力を示すことができるのだけれど、ずっと見続けるにはいささか単調で、こちらの集中力が持続しないのだ。
ただし今回の『ヘッダ・ガブラー』では最後の場面の流れはスムーズで求心力があった。