閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

SPAC『天守物語』


天守物語 | SPAC

  • 演出:宮城聰
  • 作:泉鏡花
  • 音楽:棚川寛子
  • 空間デザイン:木津潤平
  • 小道具デザイン:深沢襟
  • 舞台監督:山田貴大
  • 出演:阿部一徳、美加理、三島景太、舘野百代、木内琴子、大石宣広、大道無門優也、榊原有美、本多麻紀、大高浩一、片岡佐知子、桜内結う、寺内亜矢子、石井萌水、永井健二
  • 劇場:浜名湖ガーデンパーク 屋外ステージ 水辺の劇場
  • 上演時間:65分
  • 評価:☆☆☆☆☆

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 宮城聰演出の『天守物語』はク・ナウカの代表作のひとつで、私の知り合いで見た人たちの評判がとても高い作品なのだけれど、私は見ていなかった。今回の上演はふじのくに野外芸術フェスタ2014での上演で、浜名湖花博2014の会場内の屋外ステージで午前11時半から上演される。花博の入場チケット代800円で、SPAC『天守物語』と鎌ヶ谷アルトギルド/一徳会『SL --白鳥の湖まで--』の2本を見ることができる非常にお得な公演なのだ。とはいうもの、私の場合、東京からの往復なので交通費がかかっているわけではあるが。

 花博の会場の浜名湖ガーデンパークは、その名のとおり、浜名湖畔にある広大な公園だった。花博のお客さんは年配の園芸愛好家たちが9割、あとは大学生ぐらいの若いカップルがちらほら。上演会場の野外ステージは500名ぐらいのキャパシティで、思ったより本格的で立派な劇場だった。野外とはいえ、舞台と客席には屋根があって、雨が降っても問題はない。舞台の間口は20メートルほどとかなり幅広い。 

 入場無料とはいえ、演芸愛好家の老人がほとんどという花博入場者のなかで、SPAC『天守物語』の公演がうまくいくのだろうかと少々危惧していた。客席は開演前にはほぼ満員となった。必ずしも芝居が目当てというわけではなく、おそらく屋根があって、座って休めるところということで、ついでに芝居も見ておくかという人が多かったように思う。SPACの公演を目当てにやってきたのはおそらくせいぜい2、30名だろう。 

 私は最前列中央の席を確保した。このポジションでSPAC『天守物語』を見られるなんて最高だ。目の前で美加理さんを見ることができる。『天守物語』は、宮城聰ク・ナウカのレパートリーのなかでも、とりわけ娯楽性が高い作品だった。華やかで滑稽で叙情的で奇怪、そして圧倒的に美しい。感覚に訴える喜び、快楽に満ちた舞台を堪能した。 

 広い舞台の両脇に広がるかたちでスピーカーが座る。演奏隊は舞台奥に隠れていて見えない。舞台中央部では、鮮やかでユーモラスな衣装を着た人物たちが優雅に動く。音響的には若干難はあったが、語りと台詞を担当するスピーカーの佇まいと声の響きが緊張感ある演劇空間を作り出していた。図書之助のスピーカー、本多麻紀さんの語りがよかった。不動で凛々しく、真っ直ぐと語る。歌舞伎の『勧進帳』の義経のようにポーズが決まっていてかっこよかった。

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屋外ステージでのSPAC『天守物語』。フラッシュなしでの撮影可だったので。ユーモラスで華やかな夢幻劇。娯楽性も高く、花博の観客も楽しんで見ていた。素晴らしかったよ。見に来てよかった。


 美加理さんの富姫はやはり圧倒的な存在感だ。おどろおどろしく美しい。前半の幻想的喜劇の祝祭的狂騒が、後半の富姫と図書之助の一目惚れのロマンチックな愛へと一気に収斂していく。そして結末は馬鹿馬鹿しささえ感じる大らかなデウス・エクス・マキナ。 爽快で楽しい舞台だった。浜松までわざわざ見にきた甲斐はあった。

花博の客の大半は舞台に引き込まれていたように感じた。終演後は拍手がなりやまず、ダブルコールとなった。この日、SPACの公演をたまたま見に来た花博入場者は、思いも寄らぬ非日常を体験することになった。こうしたイベントでの公演も悪くない。こういうイベント枠内での公演だからこそ、SPACの演劇と出会う機会を得ることができた人が多かったのだから。これをきっかけにSPACに関心を持つ人が出てくれればいいのだけれど。。