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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

フリーちんどん×のまど舎「蔦紅葉宇都谷峠 音楽」

音楽

『蔦紅葉宇都谷峠 音楽』
【フリーちんどん×のまど舎】
渡辺康蔵 サックス、フルート
紺野将敬 チンドン、ドラム
堀込美穂 アコーディオン、ピアノ

【ゲスト】
北澤輝樹、平野雄一郎、加藤久美子
萩原ほたか(お芝居デリバリーまりまり)

場所: 高円寺 天 http://artbarten.web.fc2.com/

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 FB上の告知で、本人同士は繋がりがないはずの二人の知り合いが、「参加する」と表明したことに好奇心をそそられ、私はまったく知らないバンドだったのだけれど、ライブハウスに足を運んだ。ライブのタイトルが『蔦紅葉宇都谷峠 音楽』となっているのが興味をひいた。『蔦紅葉宇都谷峠 』は河竹黙阿弥作の歌舞伎作品で、ライブには俳優も何人か参加するとあった。

http://instagram.com/p/o8brL4DTzm/

"のまど舎+フリーちんどん「蔦紅葉宇都谷峠 音楽」という劇音楽のライブ。サックス・フルート、アコーディオン・ピアノ、ちんどん+ドラムの編成。フリージャズ風のインプロが入る音楽がかっこいい。俳優の朗読付き。黙阿弥のリズミカルな台詞との組合せが絶妙。

 

 「19時頃からだらだら始まります」と告知ページにはあったのだけれど、どんな感じなのか分からないので18時45分頃、会場に行った。するとまだ準備中で客はいない。「とりあえず座って待っていて下さい」と言われたので、出演者が雑談しながら準備するのを隅に座って、居心地の悪い思いをしながら見ていた。ライブが始まったのは19時20分ぐらいからか。出演者がゲストの俳優を入れて7名、客が10名くらい。内輪の集まりで私ひとりが何かの間違いで紛れ込んでしまった場違いな客という感じである。しかしこうした居心地の悪さはライブが始まるとすぐに吹き飛んでしまった。

 サックス、フルートの渡辺康蔵氏が、珍妙な外国語MCで場の空気を親しみやすいものにしていく。ライブの前半は、昨年静岡県の路上で音楽劇として上演したという「蔦紅葉宇都谷峠 」の音楽が3人の俳優の朗読を交えながら演奏された。チンドンのパーカッションによる騒がしくユーモラスなパーカッションとアコーディオン・ピアノ、サクソフォン・フルートの組合せで奏でられる音楽は、意外にも攻撃的なフリージャズっぽい響きの音楽だった。旋律はどこかプログレ風なところもあったり、ちんどん屋風のノスタルジックな歌謡曲風でもあったり。この音楽と黙阿弥の台詞の切れのよさがよく合うのだ。長唄のほんわかした調子と対比されるのももちろんいいのだが、黙阿弥の原作のアナーキーバロックな世界に、自由で陽性で遊戯性豊かなこの音楽はぴったり適合しているように私は感じた。劇音楽であったことを裏切らない本当にドラマチックで密度の濃い時空が成立していた。

 休憩時間には萩原ほたか(お芝居デリバリーまりまり)氏のひとり芝居があった。『桃太郎』、『羽衣伝説』、『みにくいアヒルの子』を語りながら演じるというもの。表現は多彩で面白かったが、動きがパントマイム的であったため、言葉の語りと重ねられると過剰なパラフレーズになってしまう。語りと対話と身体表現が三つ重なってしまったため、説明的すぎて、余白が乏しくなってしまったような感じがした。表現としては重く感じられてしまうのだ。語り芸と演劇的表現は、上演芸術としては隣接しているけれど、この二つを効果的に結びつけるにはどんな工夫が必要なのだろうか、と考える。

 休憩時間後は、フリーちんどん×のまど舎の本来のレパートリーとなるちんどん屋風懐メロ歌謡を、「フリー」に奔放に崩した音楽での楽しい時間だった。歌ものも入り、観客も一部合唱したりして、盛り上がった。最初にこの部屋にはいったときの「ぼっち」感を忘れて楽しむ。狭い空間のなかで音楽を通じて、そこにいる人たちが溶けてしまうような感覚を味わえるのがライブのいいところだ。久しぶりにこの溶解する感覚の喜びに浸った。楽しい2時間半だった。