閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

青年団『忠臣蔵・武士編』

作・演出:平田オリザ

上演時間:70分

劇場:こまばアゴラ劇場
出演:島田曜蔵 大塚 洋 大竹 直 山本雅幸 河村竜也 海津 忠 前原瑞樹

平田オリザ演劇展vol.4|公演履歴|公演案内|青年団公式ホームページ

 

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忠臣蔵・武士編』は昨年12月に宮城聰演出によるSPACの舞台を見ている。主君である浅野内匠頭吉良上野介江戸城内で切ったために、切腹したという事態を受けて、赤穂藩士たちが家老の大石内蔵助を中心に今後の対応について話合いを行う場面だ。
江戸幕府が開幕し、太平の世になってから既に100年がたち、武士たちもすっかり官僚化している。全体の空気を読みながら、何となく合意形成を行う赤穂藩士たちの様子は、現代の日本人の組織のあり方の優れた風刺になっている。最終的には赤穂藩士たちは、討ち入りの決定を下し、全員切腹という悲劇的な結末を受け入れることになる。

宮城演出版では、大石内蔵助を演じた下総源太朗が巧妙に他の藩士たちを誘導する様子が強調されていたように感じたが、平田版では必ずしもそうではなく、全体の流れで決定に行き着いた感じになっているような気がした。またSPAC版では、台詞こそ現代口語風ではあったが武士の佇まいや動きには時代劇的な様式美が付与されていて、視覚的にも見応えのある舞台を提示していた。花魁の集団のダンスなどといいう平田版にはない幻想的なサービス場面もSPAC版には中間に配置していた。精密な言葉のやりとりの演劇作品を、身体的・視覚的な表現に強引に変換させる宮城聰のやり方には、やはり鈴木忠志の系統の演劇美学の継承されている。

平田版では俳優たちは武士の扮装こそしていたいけれど、おもちゃの刀やタブレットPCなどを士が持っている。ピアスをしている士もいたりして、敢えて現代と時代劇がルーズに混交されていた。だらだらとした弛緩した雰囲気は平田版のほうが濃厚だった。昨夜の平田版『忠臣蔵・武士編』を見て、この作品が平田の《擬似会議シリーズ》の一つである事に気づいた。平田は『御前会議』、『ヤルタ会談』、『サンタクロース会議』など同じような設定・手法で、いくつか作品を作っている。歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』ではあっさりさっと上演されてしまう評定の場を、《会議シリーズ》の手法を用いて表現できると判断した平田の着想が優れている。

私はSPAC版も平田版も両方好きだ。SPAC版には平田版にはない派手で楽しいスペクタクルがあるが、平田版での青年団の俳優たちの人物造形のうまさ、芝居のタイミングとリズムの完成度の高さも魅力的だ。特に今回のキャストでは、島田曜蔵 大塚 洋 大竹 直 山本雅幸 河村竜也といった青年団の中でも個性的で、存在感のある俳優を揃えていたため、見応えがあった。