閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

劇団うりんこ『妥協点P』

『妥協点P』

  • 作・演出:柴幸男(ままごと)
  • 舞台美術:杉原邦生(KUNIO)
  • 照明:御原祥子
  • 衣裳:さくま晶子
  • 舞台監督:牧野和彦
  • 宣伝美術:加藤賢策 内田あみか(LABORATORIES)
  • 制作:平松隆之 安形葉子
  • 出演:朝比奈緑 藤本伸江 牧野和彦 宮田智康 山中真理子
  • 劇場:こまばアゴラ劇場
  • 上演時間:75分
  • 評価:☆☆☆★

 

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柴幸男が作・演出する作品を、名古屋の児童劇団うりんこが上演。うりんこは親子劇場や学校公演が中心に興行を行うプロの劇団。レパートリー作品をいくつかもち、年間一〇〇公演ぐらい行う伝統的なスタイルの劇団だが、最近は小劇場の世界の若手人気作家にも作・演出を新作を依頼する。公演後のトークでわかったのだが、柴幸男はこうした形態の劇団が存在することを、うりんこから仕事の依頼があるまで知らなかったようだ。日本の演劇界のジャンル毎の溝の大きさを窺わせる。 

委嘱作品は劇団のレパートリーとして少なくとも数年のあいだはいろいろな場所で上演されるわけだから、小劇場の公演と違い、作・演出が公演のすべてをコントロールするわけにはいかない。7月に見た青年座の『あゆみ」でも感じたことだが、柴幸男の個性よりも劇団の長い歴史のなかで培われてきた特色のほうが強くなる。柴幸男もこのあたりのことは割り切っているようだった。 

しかしこの『妥協点P』の脚本・演出は冴えないものだった。柴幸男は陳腐でシンプルな主題を、独創的な演劇的仕掛によって見せることで、その凡庸な主題に新しい光をあてる。平凡なものに含まれる本質、かけがえのなさを観客に気づかせるような演劇的なマジックが、彼の作品の魅力だ。しかし『妥協点P』は脚本にも、演出にも柴幸男らしい創意が感じられない。 

舞台は高校の図書準備室。学園祭での上演のために生徒が書いた戯曲で、教師と生徒の恋愛が書かれていた。このことを問題と考える教師と問題でないと考える教師がいて、意見が対立する。結局、数回にわたって台本の書き直しが行われるのだが、書き直されるたびに、教師間の意見の対立は複雑でわけのわからないものになってく。教師のあいだの議論の様子が台本の書き換えで導入されるのだ。 

上演時間65分。妥協点を探し求め、議論を行っていくうちに、どんどん錯綜していく状況を喜劇的に描く。作品としてはよくできた部分はあるけれど、ありきたりで意外性に乏しい。またうりんこの俳優たちの演技は誇張型のもので、アゴラ劇場での上演にはそぐわない大声の怒鳴り合い芝居だった。フランスの風俗喜劇、教訓付を連想するが、たとえばマリヴォーの実験劇などを連想するが、『妥協点P』には脚本、芝居ともに繊細さがない。 

公演を重ねていく中で熟成し、うりんことしては少々特異なこの作品はで貴重な財産演目となる可能性はあるが、柴幸男作品としてはあの保守性と作・演出両面の凡庸さはどのような意味を持つのだろうか?作品自体が『妥協点P』を感じさせるある種のメタ演劇になっている。