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閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ヴィクとフロ 熊に会う

ヴィクとフロ 熊に会う(2013)VIC + FLO ONT VU UN OURS

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 カナダ人監督によるフランス語映画ということで見に行った。ケベックの映画かと思えば、監督はケベックの東にあるヌーヴォー・ブランスウィック州の出身だとか。この州は英/仏語が公用語で、人口の30%ぐらいがフランス語話者だったはずだ。カナダの東端で、アカディア人たちの末裔が住むという。一度行って見たい場所だ。

 映画の内容については事前の知識はまったくなかった。『ヴィクとフロ 熊に会う』という牧歌的なタイトルから、何となく素朴な動物もの、少年たちと熊の交流なんかを描いた青少年向きの作品を思い描いていた。邦題はフランス語の原題のほぼ直訳である。実際にはタイトルからの印象とはまったく異なる怪作だった。

 ヴィクとフロは女性だった。ヴィクトリアとフロランス。ヴィクトリアは六〇代の女性で何かの罪で終身刑を宣告されていたが、仮釈放となり叔父のもとにやってきた。叔父は年老いていて、半身不随(どころか全身ほとんど動かない状態)で車椅子生活だった。叔父の世話をしていた少年を追い出し、叔父が住んでいる砂糖小屋に刑務所仲間で恋人のフロランスを呼び寄せる。ヴィクトリアはレズビアン、フロランスはバイセクシャルで、二人は恋人同士だった。

 砂糖小屋は冬期から初春にかけてサトウカエデからメープルシロップを採集するときに使う小屋だろう。ヴィクとフロが住むこの小屋は町から離れたサトウカエデの森のなかにある。その森の小屋でひっそりと愛欲にふけりならが、淫靡に暮らすわけありの女二人。彼女たちの言動からたちあらわれる倦怠、退廃の空気が、作品を支配する。そんな彼女たちのもとにある日、「熊」がやってくる。劇中で「熊」が登場する場面にのみ、パーカッションのBGMが流れる。

 ある種の無慈悲なホラー映画であるとも言える。主要人物の醜悪さ、魅力のなさ、殺伐としたストーリーが、魅力になっているという逆説的でひねくれた作品だった。トリアーやオゾンを連想させるところはあるが、あのような美的陶酔は皆無だ。この徹底した殺伐はポツドールが近いかもしれない。救いのない酷い話だった。後味悪い。しかしその意地の悪さがたまらない。