閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

モダンスイマーズ『悲しみよ、消えないでくれ』

kanashimi of モダンスイマーズ

  • 作・演出:蓬莱竜太
  • 美術:伊達一成
  • 照明:沖野隆一
  • 音響:今西工
  • 衣裳:坂東智代
  • 舞台監督:内藤正宏 
  • 演出助手:滝沢めぐみ
  • 宣伝美術:金子裕美
  • 票券:atlas
  • 制作:ヨルノハテ 
  • 出演:古山憲太郎 津村知与支 小椋毅 西條義将 生越千晴/今藤洋子 伊東沙保 でんでん
  • 劇場:池袋 東京芸術劇場シアターイース
  • 上演時間:2時間
  • 評価:☆☆☆☆

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 蓬莱竜太作・演出作品は、新国立劇場の公演を見たことがあるけれど、モダンスイマーズの公演を見るのはこれが初めてだった。ツィッターの私のTLで評判がよかったので当日券を買った。通路まで埋まる満席の公演だった。

 とある山小屋が舞台となっている。老年にさしかかった山小屋の主人をでんでんが演じる。妻はもう亡くなっているようだ。この主人にはおそらく10代後半の娘(杉浦梢)がひとりいて、彼女は明日山小屋を出て、町で生活をはじめることになっている。30代のハンサムで影のある男性、新山忠男(古山憲太郎)が二年前からこの山小屋で居候生活をしている。彼は二年前に事故で死んでしまったこの山小屋の長女の恋人だった。この日は、二年前に土砂崩れの事故で死んでしまったこの山荘の長女の命日だった。山荘に新山の大学時代の山岳部の仲間三人、そしてこの山で荷運びの仕事をしている若い夫婦がやってきた。

 

 二年前に他界した山小屋の長女と恋人だった男、新山忠男は小説家志望なのだが、作家としては目が出ず、社会との交流をたって山小屋でひっそりと暮らしている。この新山の一見、生きるのに不器用そうなダメ男ぶりが女性の母性本能をくすぐるのか、じつはとんでもないモテ男だったのだ。自分から口説くのではなく、女性のほうから言い寄られるタイプである。学生時代からの女性遍歴で彼はおそらく多くの女性を傷つけている。しかし相手から言い寄られていることもあり、数多くの女性との恋愛経験を経て、この男は他者を傷つけることに鈍感になっていた面もあるに違いない。こうしたモテ男は実際にかなりの数、いるに違いない。

 

 さて私たちの日常には自分の不注意、鈍感さが原因で、悔やんでも悔やみきれないような取り返しのない失敗をしてしまうことが時にある。この作品ではそうしたとりかえしのつかない事態に直面した人間が、その事態にどう向き合っていくかということが問題提起されている。

 演出、脚本ともによく練り上げられていた。曖昧で観客にははっきりしない要素の置き方が物語を動かすサスペンスとしてうまく機能していて、退屈することなく、ずっと注意をひきつけられる。起承転結で展開する物語の「転」にあたる部分、話の転回点が秀逸だ。日常的な風俗喜劇が、喪失にかかわる厳粛で痛切な悲劇へと転換し、感情を揺さぶる。