閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

Mommy/マミー(2014)

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Mommy/マミー(2014)

  • 上映時間 139分
  • 製作国 カナダ
  • 初公開年月 2015/04/25監督: グザヴィエ・ドラン 
  • 製作: ナンシー・グラン 、グザヴィエ・ドラン 
  • 脚本: グザヴィエ・ドラン 
  • 撮影: アンドレ・トュルパン 
  • プロダクションデザイン: コロンブ・ラビ 
  • 衣装デザイン: グザヴィエ・ドラン 、フランソワ・バルボ 
  • 編集: グザヴィエ・ドラン 
  • 音楽: ノイア 
  • 出演: アンヌ・ドルヴァル(ダイアン・デュプレ)、スザンヌ・クレマン(カイラ)、アントワーヌ・オリヴィエ・ピロン(スティーヴ・デュプレ)
  • 映画館:新宿武蔵野館
  • 評価:☆☆☆☆★

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 まだ25才だが、すでに5本の映画を監督し、そのすべてが高い評価を得ている。今年のカンヌ映画祭の審査員にもなった。ドランはケベック=カナダのみならず、現在のフランス語圏を代表する国際的な映画作家となってしまった。その圧倒的な早熟性ゆえに天才と呼ばれるのは無理ないことだ。しかしその作風はあまりにもナイーブで、自己陶酔的、自意識過剰であるように思えた。

 最初の長編作品、『マイ・マザー』は私の好みではなかった。日本での最初の大ヒット作、『私はロランス』は私はそれほど好きな作品ではない。昨年公開されたミシェル=マルク・ブシャールの戯曲に基づく『トム・アット・ザ・ファーム』はその繊細な自己陶酔が弱まり、作品の強度が一気に増した。

 そして日本で公開された最新作、『Mommy』。『マイ・マザー』に直接繋がる母と息子の物語だが、作品としては『Mommy』のほうがはるかに素晴らしい。そして前作『トム・アット・ザ・ファーム』に匹敵する普遍性を持つ完成度の高い作品だった。

 ADHDの少年に激しく振り回される母親とその少年との関わりの中で深いトラウマから抜け出すきっかけを得た休職中の女性の教員の物語。結末にカタルシスはない。しかしこの世の桎梏から抜け出そうともがく彼らの姿には、切実な希望が託されている。

 音楽の使い方はこれまでのドランの映画同様、この映画でも実に効果的だ。曲のドラマを映像的に引き出す。そして音楽の中味と結びついたその映像は、作品全体のドラマのなかにかっちりと組み込まれている。

 一対一の正方形に切り取られたスクリーン画面の窮屈さが物語の登場人物たちの閉塞性のメタファーになっている。シンメトリックで奥行きのあるカットの多用は、端正で古典的、緊張感のある美しさを画面に作り出していた。

 俳優の演技演出も素晴らしい。シングル・マザーのダイアンは、エキセントリックな激情家だが、率直な人間だ。スザンヌ・クレマンが演じたカイラは、心に深い傷を負い、そのためひどい吃音となり、休職中だ。クレマンはこの人物の傷つきやすさ、慈愛を丁寧に表現する。そして少年役のアントワーヌ・オリヴィエ・ピロンは、本人も他者もコントロールできない感情の爆発、突発的な行動を見事に演じていた。

 映画で示された母ー息子の関係について、一人の親の立場から、私が感じたこと、それは親は子供に何も期待できない、ただ子供を受けとめ、受け入れることしかできない存在であるということだ。これは自らの意志で、自分の分身たる存在を作ってしまった親が覚悟して受け入れなくてはならない宿命なのだ。