閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

8月の家族たち(2013)August : Osage County

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5月にケラリーノ・サンドロヴィッチ演出、麻実れい主演の舞台を見た。アメリカ版のマクドナーといった感じの強烈な皮肉と荒々しい言葉で、とある家族の欺瞞が無残に暴かれていく作品で、舞台作品としてとても面白かった。主人公は薬中で、家族というものを根本的に信用できず、激しく憎悪し、その容赦ない毒舌で家族のメンバーを追い詰めるエキセントリックな老女だ。もちろんこの憎悪と激しさは、(たとえそれが欺瞞であったとしても)家族愛への激しい渇望と彼女の孤独感、人間的な弱さと表裏一体となっている。

映画版ではメリル・ストリープが主演であることを知り、個人的には麻実れいよりもメリル・ストリープのほうがこの作品には合っているような気がして、DVDを借りた。映画版はストリープ以外も、ジュリア・ロバーツ、、ユアン・マクレガー、カンバーバッチなど人気俳優が揃っている。主人公の老女の退廃と孤独の深さは、やはりストリープのほうがニュアンスに富んだ演技をしている。麻実れいの怪物ぶりの迫力は相当なものだし、映画でロバーツが演じた長女を舞台で演じた秋山菜津子とのやりとりの緊迫感、リズムは痛快であったが、舞台というジャンルの特性もあり、記号的でニュアンスに乏しいものであったように、映画版を見たときに思った。

映画版はとても丁寧に作ってあったのだが、ドラマとしての緊迫感は舞台版が上かもしれない。緊迫したやりとりをするっと反転させる脚本の作りの巧さについては、映画版で見たときも「おっ」と思わず声が出てしまうほど鮮やかで素晴らしい。