閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

この世界の片隅に(2016)

konosekai.jp

 

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突然の死が日常に入り込むのが当たり前となった戦時下の状況の下では、平時にはありえないような感動的な人間のすがたが見られることもあっただろうが、極度のストレスに晒される日々の継続のもと、平時には閉じ込められていたあさましく非道な行いも噴出していたに違いないと、私は想像する。

この世界の片隅に』は、そうした極度にストレスフルな状況であっても、いやそういう状況であるからこそ、そうあって欲しいという人間のありかた、庶民の日常への願望が描き出されているように思った。

無垢な犠牲者である庶民を美化するのではなく、悲惨で痛ましい歴史的現実のなかに祈りと希望を求めたいという気持ちがこのような作品を作らせたのではないだろうか。

もしかすると戦時下にこういう日常が本当に存在していたかのもしれない。人間の生活のはかなさ、そのはかなさゆえの愛おしさ、美しさを淡々と優しく伝える作品だった。見ていて知らないうちに泣いてしまった。

帰りの電車のなかで、映画を反芻しまた泣いた。じわじわと心に迫る作品だ。