- 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
- 脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 、 ジャック・ダヴィッド
- 製作:ドン・カーモディ 、 カリーヌ・ヴァナッス
- 撮影:ピエール・ギル
- 音楽:ブノワ・シャレスト
- キャスト:カリーヌ・ヴァナッス、セバスチャン・ウベルドー、マキシム・ゴーデット
- 映画館:ヒューマントラストシネマ渋谷
- 評価:☆☆☆☆☆
http://aoyama-theater.jp/feature/mitaiken2017
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フェミニズムを憎悪する男が、冬のある日、理工科学校の女子学生を銃で次々と殺戮していく様子を緊張感に満ちたモノクロの画面で再現する。この事件に遭遇した人間が味わった恐怖と混乱、彼らに残されたトラウマを淡々と描く。
犯人の内面は説明されない。彼がただフェミニズムを激しく憎んでいて、それが大量殺戮の動機となったことだけが提示される。3人の視点からこの事件が再現される。一人は犯人、もう一人は生き残った女子学生、3人目はこの女子学生の友人の男子学生。犯人は最後に自殺する。男子学生は自分がこの惨劇の現場にいながら何もできなかったことに大きなショックを受ける。彼はただ動き回り、血まみれの犠牲者を目にする。事件後、この青年はクリスマス前に田舎で一人で暮らす母を訪ねた後、雪の平原のなかに自動車を停め、排気ガスで自殺する。女子学生は希望通り航空会社でインターンとして働きはじめた。しかし常にあの事件の悪夢に苦しめられている。彼女は妊娠した。その事実を不安とともに受けとめるが、自分のお腹のなかの生命に祈るように希望を託そうとする。
日常のなかに唐突に圧倒的な暴力が入り込んだときの人間の無力さ、弱さ、状況にただ戸惑い、恐れる様子が、冷徹に映し出される。そしてこうした暴力が、その被害者に与えるダメージの強烈さも。こうした説明不可能な破壊衝動は、その不条理性ゆえに人間を震撼させる。それはわれわれ自身が心のなかに抱え込んでいる闇の深さを象徴しているかのように感じさせる。
ヴィルヌーヴはこのセンセーショナルな事件をできるだけ理知的に客観的に提示しようとした。彼の硬質で冷静な映画美学がこの作品に荘厳な緊張感を与えている。切り取られたショットもシャープだが、音楽も素晴らしい。