- 製作国:イギリス/フランス/ベルギー
- 初公開年月:2017/03/18
- 監督: ケン・ローチ
- 製作: レベッカ・オブライエン
- 脚本: ポール・ラヴァーティ
- 撮影: ロビー・ライアン
- 編集: ジョナサン・モリス
- 音楽: ジョージ・フェントン
- 出演: デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ
- 映画館:シネ・リーブル神戸
- 評価:☆☆☆☆☆
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社会的弱者を蹂躙し、絶望と無気力に導く社会システムの理不尽に対するケン・ローチの激しい憤りが伝わってくる作品だった。私たちは怒りを表明しなくてはならない。決してあきらめてはならない。ケン・ローチの作品は、正しく生きるというのはどういうことなのかを教えてくれる。
私はこの映画で描き出される登場人物の強さと弱さに何度も泣いた。権力を持つものの理不尽で無礼な対応に対して、弱者はどれほど強くならなければならないか。そして社会・組織の横暴に対して、個人はどれほど弱いものなのか。強さと弱さの現実をこの作品ははっきりと提示している。
はっとさせるような悲壮で美しい場面がいくつかある。最初に私が思わず涙したのは、福祉事務所の申請で困窮するケイティ母子を邪険に扱う職員に対し、ダニエルが決然と異議申し立てをした場面だ。私もまた自分の身の回りの人間が被る理不尽に対して、はっきりと抗議を行えるような人間になりたい。
配給所で思わずケイティが缶詰をその場で開けて食べてしまう場面もたまらない。ああいう情景を思い付き、作品に挿入できるローチのアイディアは驚くべきものだ。ずっと我慢してきた彼女は思わず缶詰を開け、その中身を立ったまま口にする。そのみじめさに崩れ落ちるケイティを受け止めるダニエルをはじめとする周囲の人間の心優しさに胸打たれる。
福祉局での対応に絶望したダニエルが、スプレーで福祉局の壁に対応を告発する怒りの落書きをする場面にも思わず背筋が伸びた。あの怒りの表明でもって彼はかろうじて人間としての尊厳を表明できた。あの落書きは彼だけではない、社会システムから虐待される弱者たちの悲痛な叫びであり、やりきれない憤怒の怒号だ。
そしてぼろぼろになったダニエルを訪ねるデイジーのドア越しのセリフ。「あなたは私たちを助けてくれた。今度は私たちがあなたを助ける」。この言葉に傷つきぼろぼろになったダニエルは人間を取り戻す。
社会の不条理に押しつぶされそうになりながらも、必死でそれに抵抗し、人間としての尊厳を守ろうとするダニエルとケイティの悲壮な闘いが、いくつもの感動的な場面を作り出していた。