10月歌舞伎公演「通し狂言 霊験亀山鉾(れいげんかめやまほこ)」
敵役二役を演じた仁左衛門の美しさ、かっこよさは筆舌に尽くしがたい。その視線、表情、呼吸、声、動きの一つ一つに感嘆の声が漏れそうになる。いや実際に漏れてしまう。
歌舞伎ならではの趣向の数々と役者の魅力、そして濃厚で過剰な演劇的な美を堪堪能した。奔放で荒唐無稽な設定と展開に、はみ出しそうな多彩な具を無理矢理つめこんだ幕の内弁当を連想する。
とにかく歌舞伎の魅力がぎゅっと凝縮されたすばらしいスペクタクルだった。子役の芝居とその使い方もすごいとしか言いようがない。
こういう体験がたまにできるから、歌舞伎はたまらない。国立劇場は通し狂言ではじめとおわりがある歌舞伎の演劇作品としての面白さも楽しむことができるのがいいところだ。しかも5000円以下のチケット代で舞台のすぐ近くの席で役者の姿を見ることができるのだから。