閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

トマ・ブーヴェ&太田宏『Larmes / 涙』

フランスの劇作家・演出家トマ・ブーヴェと青年団所属の俳優、太田宏の『Larmes 涙』を京都に見に行った。ブーヴェは京都のヴィラ九条山で滞在制作を行った。作品は完成品ではなく、試演会的なもの。上演時間60分。
太田宏は平田オリザ作の『別れの唄』(大好きな作品だ。フランス語の授業でもしばしば学生に見せている。日仏文化の齟齬を考える教材としても素晴らしい。)などこれまで日仏共同制作の演劇作品に何本か出ているが、今回は一人芝居、それもフランス語での一人芝居ということで、がぜん興味を掻き立てられた。しかも作品制作のプロジェクトはスタートしたばかりである。もし可能ならこの日仏プロジェクトの立ち上げから、フランスおよび日本での公演までの過程を追っかけて、記録できないかという目論見もあった。

work in progress、つまり作りかけの作品の試演会ということで、舞台作品としてはまだ到達形には程遠い。正直そんなに面白い作品ではなくて、いかにも今のフランス演劇人が作りそうな作品だなあと思ってみていた。

紗幕で客席と演技エリアが遮られ、太田宏は紗幕越しに演技をする。照明は終始暗い。紗幕の向こうの演技で、動きは左右の水平だけ。最初はぽつぽつと断片的にフランス語の単語をつないでいく感じだが、だんだんスピードアップしき、言葉も圧縮されていく。

脚本はかなり抽象的で物語性に乏しい。「孤独」や「闇」といった主題にまつわるベタな語彙が繰り返され、テクストとしては単調で魅力に乏しいような。日本語版の上演が1年半後(!)に予定され、そのあとパリでダンサー二人を加えた上で上演される予定とのこと。とりあえず今日の試演会が一つの区切りらしい。太田宏はとりあえずフランス語のセリフを詰め込んだという感じで、その言語表現をまだしっかりコントロールできている感じがしない。今日の公演では、なぜ日本人の俳優を使ってこのテクストを上演しようと思ったのか、私にはよくわからなかった。終演後に作・演出家のブーヴェに聞くと、10年前、京都で出会った日本女性(泣いていたそうだ)のイメージがテクストの出発点だったから、京都で滞在してのプロダクションとして、日本人俳優でこのイメージを核とした作品を上演したいのだというようなことを言っていた。

太田のフランス語はまだリズムもイントネーションもぎごちない。フランス語については日本語なまりをあえて残すのではなく、もっとなめらかで自然な発声を目指すとのこと。
紗幕にプロジェクションマッピングで映像を映し出していたが、日本で上演するにしてももしかするとあえてフランス語で演じて、日本語字幕を出すかたちのほうがいいかもしれない。

主題といい、テクストといい、演出と言いある種のフランス演劇人の型にはまった感じの作品だったが、今後、太田宏が言語をコントロールできるようになり、作家・演出家に対抗できるようになったときに、どう変化していくのかに注目したい。

Villa Kujoyama | トマ・ブーヴェ&太田宏