閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ザ・モニュメント 記念碑

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  • 作: コリーン・ワグナー
  • 翻訳: 神保良介
  • 演出: 川口典成(ピーチャム・カンパニー)
  • 出演: 西田夏奈子  神保良介
  • 劇場:高田馬場 プロトシアター
  • 評価:☆☆☆☆

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2014年に同じ劇場で見た時も雪の日だったような気がする。

すごく陰惨で重い芝居だったという印象は強烈だったが、話の内容は覚えていなかった。しかし始まってすぐどんな話だったが記憶が蘇った。

若い兵士と女の二人芝居、2時間。
兵士は何人もの若い女性を拐かし、強姦し、殺害した。その罪で裁かれ処刑されようとするときに、女がやって来て女の命令にはそれがどんなものであっても従う、という条件で、兵士の処刑を免れさせる。兵士は鎖で繫がれ行動の自由を奪わる。女は兵士に対して常に強圧的にふるまい、ときに理不尽な要求を兵士にして、兵士を肉体的・精神的に苛む。

マリヴォーの一幕ものの芝居にあるようなある種の人工的な状況の下で展開する実験劇で、戦争中の独特の高揚感のなかで倫理観を麻痺させ女を陵辱し、殺害した状況が兵士によって再現される、あるいは女の命ずるままにその状況を再現させられる。圧倒的な権力関係のなかの暴力の残忍さを延々と見せつけられるきつい芝居だ。

こうした戦争がらみの極限状況を、日本人の俳優が説得力のある演技で再現することは難しい。生ぬるく平和の日本の状況が、この種の芝居に要求される苛烈さにそぐわないのだ。上村聡史演出のカナダのケベックの作家、ムワワッドの『アンサンディ』を見た時、岡本健や麻実れい、その他新劇系の俳優たちがあの作品で描き出されている悲惨な状況を、「上手に」演じれば演じるほど、私はそらぞらしさを感じた。

『ザ・モニュメント 記念碑』では状況を徹底的にきりつめ、抽出することで、日本人俳優でも説得力のある表現が可能な普遍性を持つことができているように思った。もちろんずっと極度の緊張を保ち続けたまま、激しい芝居を続ける二人の俳優の演技も素晴らしいとしかいいようがない。見ている方もその迫力に引き込まれながら、げっそりしてしまうような芝居なのだから、演じるほうの消耗度も相当なものだと思う。

プロトシアターという会場の殺伐とした倉庫のような空間も作品に合っていた。むき出しの石の床のひび割れが作品の雰囲気とマッチしていた。