閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

極端に狭い部屋についての思い出

狭いアパートといえば僕にも二つ忘れられない物件がある.
一つは僕が学部時代,学生向けの賃貸物件紹介の不動産屋にバイトしていた時に,社員のヒ人から教えてもらった東京都内で一番安い物件である.
浅草駅から徒歩10分,三畳,礼金なし敷金二ヶ月,家賃5000円.
三畳の広さとはいえ破格の物件である.ただし風呂・トイレなしである.
「風呂なしはわかるけれど,トイレなしってのは,共同ってことですか?」
と聞くとそうではなかった.その部屋がある建物にトイレがないのだ.排泄はどこですればよいのか大家に聞くと,歩いて一〇分ほどのところにある公園に公衆トイレがあるのでそれを利用すればよい,との返事だったそうだ.「目玉物件」として情報誌にそのアパートを記載したところ,問い合わせが殺到したそうだ.何人か希望者をその物件の下見に送ったが,実際に契約を結んだものはいなかったという.

もう一つは僕がパリで部屋探しをしていたときに見たアパート.パリの住宅難はすさまじく,特に現地に保証人を持たない外国人学生はなかなかよい物件に巡りあわない.僕は現地で発行されている日本語のフリーペーパーの告知欄を主に頼りにしてアパートを探した.賃貸不動産がパリではほとんどまともに機能してないので,不動産屋を介さない,告知欄を利用した個人取引が盛んなのだ.その中で一七区のまあまあ便利そうなところのワンルームで360ユーロという安い値段のアパートを見つけた.この値段でシャワーもついている.早速大家に電話して部屋を見ることにした.大家はフランス人のおばさん.日本人学生専門に部屋を貸しているらしい.最寄りの駅で待ち合わせ.「あなたはフランス語が上手だねぇ」とか見え透いたお愛想を言うおしゃべりなおばさんだった.アパートは最上階の屋根裏.エレベータなし.まあこれは仕方ない.駅からは歩いて五分ほどで周辺環境は悪くない.
七階まで息を切らせて階段を上る.おばさんが「どうぞ」と言って部屋の鍵を開け,ドアが開かれたとたん僕は硬直してしまった.広さが1.5*3mほどしかないのだ.しかも最上階の屋根裏のため胸ぐらいの高さから上の1/3ぐらいの広さがするどく傾斜している.手前には50センチ四方のシャワーコーナーが.トイレは室外のようだ.
部屋を入るとまず目につくのは目の高さにあるパイプでできた細長いベッド.ベッドの下には細長い机と椅子が置いてあった.おばさんによるとこれは「ロフト」だそうだ.
あまりの狭さに唖然とする.おばさんも急に寡黙になり,気まずい沈黙が場を支配する.思わず「それでこの部屋の広さはいったいどれくらいですか?」と愚かな質問をする.おばさんは吐き捨てるように「そんなもん知らないわよ!」と返答した.